広がりのための引き算
最近凝っているのは古いコンパクトカメラで撮影するパノラマ写真である。
もっともパノラマ写真といっても本当の意味でのパノラマではなく、通常の写真の上下をカットしてあたかも左右に広がっているように見せる偽パノラマである。たとえばこんな感じである。
この二つの「モード」をカメラについているレバーやボタンの操作で切り替える。1980年代後半頃からコンパクトカメラに搭載されたこの機能は、安価なデジタルカメラによってこのクラスのフィルムカメラが駆逐されるまで、ほぼ全メーカーで採用されていた。それが今やごく一部のカメラに生き残るのみである。PCをはじめとしたデジタル機器による自在なトリミングが可能なこのご時世にあっては、もはや無用の長物といえようか。
こういう仕組みを知ってなお偽パノラマ写真を撮るのはなぜか。それは「見る」という行為を素朴に強く意識させてくれるからである。偽パノラマ写真は漠然と広がる世界の限られた一部を注視する形で展開する。あたかも覗き見であるかのように。いや、平安時代の貴公子を気取って「垣間見」と言うべきか。「垣間見」は強く想像力に訴えかけてき、新しい物語を紡ぎ出す。なんだかわくわくするではないか。コンパクトカメラの小さなファインダーに設けられたパノラマ枠は意外にも雄弁なのである。
「写真は引き算」という至言がある(検索すると山のように出てくる!)。テーマをはっきりさせるため、なんでもかんでも写し込むなということだろうが、偽パノラマ写真はまさにこの「引き算」によって成立しているといってよい。「広がり」を生むための「引き算」。まだまだこの楽しみは捨てられない。
【お知らせ】
2年8か月にわたって続けてきたこのブログですが、ひとまずこのエントリーをもって更新休止といたします。これもまた「広がり」を生むための「引き算」ということにしておきます。長く可愛がっていただきましたこと、心から感謝いたします。
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