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2004.02.24

美しい夏キリシマ

戦争映画は戦闘や破壊、殺戮の場面があるから苦手である。だから好んで観ることはしない。今年度公開された評判の「戦場のピアニスト」なども観たいとは思わない。予告編を観るだけでも悲惨さは際立っている。しかし、悲惨なものを直接的具体的な形で悲惨に描くのは、実はたやすい。時に過度のリアリズムは人間の想像する力を奪い取ってしまう。私たちはそこに提示された「現実」に平伏すしかないからである。もちろんそれは一つの表現方法として有効で、否定することなどできはしないが、何となくとても偉い人から抗いようのない道徳の話を聞かされているようで落ち着かないのである。もうちょっと私にも考える余地をくれはしまいか。

黒木和雄監督の「美しい夏キリシマ」は戦争を状況として描く。つまり戦争映画ではあるが戦闘はない。したがって血も死も直接描かれることはない。ただ戦争の生み出す悲劇的状況のみが提示される。

空襲に見舞われた親友を見殺しにしたことから罪悪感に苛まれ、自己の存在意義や生活に疑問を持つようになった中学3年生、康雄(柄本佑)。その親友の妹は兄とともに沖縄から出てきたものの、今はただ一人遠い親戚の家での馴染めない生活を余儀なくされている。康雄の家で働く奉公人なつ(小田エリカ)の実家では、母イネ(石田えり)と弟が貧しい生活を送っている。夫が戦死し、守ってきた田畑にも満足に作物ができない中、イネは兵士と密会を重ねる。だが死んだはずの夫から手紙が届く。同じ奉公人のはる(中島ひろ子)は康雄の祖父(原田芳雄)の強い意向で戦地で片足を失って帰国した男(寺島進)の所に嫁ぐことになる。嫁ぎ先から帰省してきた康雄の若い叔母(牧瀬里穂)は、密かに海軍少尉と逢い引きを繰り返す。少尉はまもなく特攻隊として出撃する。やがて終戦。康雄は親友の妹から兄の仇を討ってくれと言われ、進駐軍に竹槍を持って向かっていった……。

映画はどこまでも静かで(むやみに音楽で盛り上げることもない)、美しい南九州の風景を背景に、あたかも細かなピースを淡々と組み合わせるかのような描写が続く。そして最後にできあがった一枚の大きな絵は、紛れもなく戦争の悲惨さを描き出しているのである。作中人物の感情がどれほどのものかは、あくまでも観客の側の想像力に委ねられている。何かをそこに観なければならないという押しつけはない。でも感じないわけにはいかない。監督と脚本家の言う「ちゃぶ台を中心にした戦争映画」は見事に成功していると思う。

「2003年度キネマ旬報ベストテン」日本映画第1位、「2003年度日本映画ペンクラブ」日本映画部門第1位のこの作品、ちなみに先日の日本アカデミー賞ではまったく無視されていた。シネ・ヌーヴォで鑑賞。

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