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2004.03.18

「アサヒカメラ」を買ってきた。

いつもは近所の書店か、図書館ですませてしまう「アサヒカメラ」を、今月は買ってきた。先に発表された木村伊兵衛写真賞の講評が掲載されているからである。受賞者である澤田知子の手法は、さまざまな人物に変装し、プリクラや証明写真機などでセルフポートレートとして撮影するというものである。これを選考委員がどういう捉え方をしているかに興味があった。

都築響一は言う、「『普通の女の子になりたくてたまらない、普通じゃない私』の、痛切な心情が染み出ているようで、その叫び声の濁りのなさが、僕らすれっからし選考委員のこころに響いたのである。もしかしたらこれは、映像による自傷行為ではないかと思ってしまうほどに。」と。澤田はいかなる意味において普通ではないのか。「リストカット写真のような」というタイトルをつけた藤原新也も、同じような捉え方をしている。「自己写真を撮る彼女はそのツラ構えの存在感とは裏腹に、その『身体性』は90年代のそれよりさらに『空っぽ』な子である。まるで自傷行為のようにその空っぽのアイデンティティーを傷つけ、変身させ、自己確認に至る、という延々たる私不在の煉獄が次々作品として結晶化している。」

両氏ともに澤田のあまりにも強烈すぎる自己否定的映像行為に今日的な意味を見出しているのであろう。つまり一般的にセルフポートレート写真から読み取れる「自己に陶酔する=ストレートなナルシシズム」とは対極にある「元の自分を殺す=自己否定の毒」を評価していると言い換えてもよい。作品の底に沈められている「自己否定の毒」が、澤田自身の言う「外見のコンプレックス」にあるのは間違いないところである。ただその「毒」は「笑い」という糖衣(変装)に巧妙に包み隠されているし、彼女自身、どこまで意識化しているかはよくわからない。

土田ヒロミは澤田知子を推さなかった。そして別のことを読み取ろうとする。「自己を無差別に他者へと無限に増殖(インスタレーション効果を多用)させていくことで均一へと向かうかのようにみえる日本を顕し出している、と評価する。」発表された作品は享受者によって新たな価値や意味を付与されるものであるから、こうした解釈も的を射たものとして首肯できる。

篠山紀信のことば。「不細工な顔写真からここまで4年がたっていることが制作年度からわかります。それにしてもなんと魅力的な女性に変身したのでしょう。もうここまでくれば怖いものなしです。」篠山は受賞パーティーで澤田に会うことをこれまでにないほど楽しみにしているらしい。撮るか、篠山!?

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コメント

写真家は撮った写真がすべてでしょうが、澤田氏の場合は、いろいろと話を聞いてみたいと思わされます。まずは来月号の特集を見てから、じっと考えてみたいですね。

投稿: morio0101 | 2004.03.21 20:21

アサヒカメラ見てきました(立ち見)
彼女の写真を知らなかったので、webでも検索して何点か見ましたが、軽い違和感(私の表現する自己否定とは違うし、これが自己否定と言われなきゃ判ないかもしれない)を覚えたのと同時に、キシン曰くの「怖い物無しの彼女」はどうスタイルを替えて行くのだろう?と興味を覚えました。
これだけ強烈なものを撮り続ければ、幾らでもこじつけることが出来そう。とイジワルな気持ちになってしまうのは何故なのか、これからゆっくり考える事にします。

投稿: mi4ko | 2004.03.21 01:45

>atcyさん
うちのつれあいも同じことを言ってました。そもそも美人だと今回の受賞理由である「自傷行為」「自己否定」が説得力を持たなくなると思われます。そう考えると、切ないですね。
>yukiさん
澤田知子で検索すると、何枚かの写真を見ることができます。一度御覧下さい。女性がどう捉えるか、興味あるところです。
>ravさん
ご感想は?
>suguluさん
これこそ賛否両論ですね。来月号の「アサヒカメラ」に特集が組まれるので、それも楽しみに待ちたいと思います。

投稿: morio0101 | 2004.03.20 04:14

彼女の写真は何枚か見たことがありますが、純粋に写真として見て、自分は好感を持ってます。ただ、自分が被写体になる写真でそういう賞っていうのは疑問符ついちゃいますね。確かに。
でも、もしも選考委員だったら押しちゃうかもしれませんw
今日本買いに行こうっと・・

投稿: sugulu | 2004.03.19 12:32

いつも情報をありがとう(^^)
早速、本屋で見てみます。。。

投稿: rav | 2004.03.19 09:30

見てみたいなー。ちょっと興味ある。

投稿: yuki | 2004.03.19 06:39

選者のコメントを読む限り、澤田知子の自己表現を肯定的に捕えているようですが、この自己表現が果たして写真の賞に相応しいのかどうかという議論はどうなったのかなぁ。ま、賞なんてそんなものだし、とやかく言う筋合いでもないけれど。
ただ、一つだけ確かなことは、澤田知子がもし絶世の美人であれば、同じ写真を発表しても賞は貰えなかっただろうということです。賞を選んだのは男性ばかり(?)のようだから、女性から見てどうなんだろうという興味もあります。

投稿: atcy | 2004.03.19 00:37

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