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2004.04.15

町田康『きれぎれ』(文春文庫)

町田康の作品が好きでそれなりに読んでいるのに、芥川賞を受賞したこの小説は手にしていなかった。なぜなのか、今となっては思い出せない。おおかた単行本を買うのがもったいないというケチな気持ちになったのだろう。そうこうするうちに、こうして文庫本で読めるようになった。ありがたいことである。

『きれぎれ』はデビュー作である『くっすん大黒』から一貫して続くスタイルを踏襲している。すなわち自己中心的で無能な若い男が主人公として据え置かれる。男はかつては裕福な生活を享受していたが、今ではすべてを失い貧窮を極めている。それもこれも奇跡的なまでに空気が読めない彼の性格が災いしているのである。起死回生を狙った手はことごとく裏目に出、ますます窮地に追い込まれるという堂々巡りを果てしなく続ける。破滅的な人生を送っているのに、悲劇や絶望とは無縁である。こうした男の生活と行動と心理を、町田は脳内からあふれ出るに任せたかのようなことばの渦で描写する。ユーモアとリズムに満ちた文章に身を浸していると、他の小説では決して得られない種類の、えも言われぬ快感に襲われる。

気持ちよく読み終えて最後に出会う池澤夏樹の解説がいただけない。すっかり町田康の文体に浸食されている。意識的か、無意識なのか、よくわからないけれど、まるで似合わないことをしていてとても情けない。

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コメント

>niconicorockさん
はじめまして。確かに町田の文章はリズムが重要な役割をしていますよね。新刊の時代劇、読んでみたいと思っています。文庫で出ているエッセイを、私は今読んでいるのですが、これもおもしろいです。また感想はここに書きます。よかったら見に来て下さい。

投稿: morio0101 | 2004.05.07 02:07

町田康さんの本を読むまで、私は小説をほとんど読んだことがありませんでした。
町田康さんの本は、活字を読んでいる。というか、すきなCDを聴いているようです。
なんどでも読めます。
新刊のパンク侍もかなりのものです。
確かに解説を書いている方々、かなり町田康化してしまうみたいですね・・・・。

投稿: niconicorock | 2004.05.06 14:07

>Qyouさん
あの主人公並みの過酷な生き方を選択するのは、相当な決意が必要だと思われますが、なんとなく思考方法に他人事と片付けられない親密さを感じてしまいます。朗読に関しては、町田本人がやっているようなことをどこかで読んだかして記憶しています。さぞかしおもしろいでしょうね。

>atcyさん
他にはないスタイルですよね。読者を選ぶスタイルでしょうが、好きな人、気に入った人にはたまらない魅力を持っていると思います。時代劇のやつは表紙からしてふざけていて、見ているだけで楽しませてくれます。買ってないけど……。

投稿: morio0101 | 2004.04.18 04:39

先日千日前ジュンク堂の文庫本の棚の前でボンヤリしていると、ワタシの目の前で瞬く間に2〜3冊売れていきました。さすがの流行作家ですね。
町田康の小説の主人公は、常に読者と同じか、或いはそれ以下の境遇にいて、それでいながらいつも謙虚で、驕り高ぶらず、文学にありがちな高いところから人を見下ろすという視点とは正反対のところから語られていて、親近感がいっぱいです。時代劇の新刊本も面白そうですね。

投稿: atcy | 2004.04.16 20:12

 おお、珍しく私がちゃんと読んだことのある作家さんだ(笑)。文学作品一般にありがちな、「そんなやついるかよ?」って主人公じゃなくって、自分と重ねて考えても不自然さを感じない町田の主人公は大好きです。あの独特のマシンガン的な文章力、「声に出して読みたい日本語」を読むくらいなら町田の小説を一冊音読したほうが良いと個人的には思うくらい。

投稿: Qyou | 2004.04.15 07:39

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きれぎれ町田 康おすすめ平均Amazonで詳しく見る 第123回芥川賞受賞作。らしい。 相変わらず、と言っていいほどの町田っぷり。 町田康の作品は、好きだ。面... [続きを読む]

受信: 2004.05.17 00:42

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