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2004.04.12

リリイ・シュシュのすべて

岩井俊二監督の「Love Letter」は世評が高く、海外でもファンが多いと聞く。その「Love Letter」を、私は最後まで見ることができなかった。中山美穂が好きでないこともあるが、とにかくべたべたしてつまらないと思った。感動的な退屈さというのはある。しかし、この映画は退屈というわけでもなく、変に情緒的でとにかくつまらなかった。同じ岩井監督の「打ち上げ花火、下から見るか、横から見るか」は気に入っているので、脚本や俳優に対する私自身の好みの問題だと思う。

「リリイ・シュシュのすべて」(2001年公開)は不快な映画だった。公開当時は14歳の内面を切り取ろうとした問題作だとされていた。中学生の引き起こすいじめ、万引き、ゆすり、たかり、援助交際、レイプ、殺人などの反社会的行動が、次から次へと描き出される(自殺もある)。興味深いのは、主人公を含め登場人物に名前はついているが、特定の誰かの行動や心理を丁寧に追いかけるのではなく、ステレオタイプ化された総体としての「14歳の心理と行動」を提示しようとしていると思われる点である。ここに見られるのはそうした行動に誰でも容易に結びつくという匿名性と普遍性である。それくらい誰がどの行動をしてもおかしくないように描かれている。ところが、誰のものにでもなりえる内面や行動そのものがクローズアップされるため、特定の人物の個性がまったく感じられない。したがって個への共感も感情移入もできない。私が最後まで登場人物の顔と名前をうまく一致させられなかったのは、単に脳細胞が衰えてきたためだけではないと信じたい。最後に残るのは、砂を噛むような味気なさと重くのしかかる不快感だけである。そこらに転がっていそうな常識的な解釈を施された「総体としての14歳」に物珍しさはなく、特別な感情も湧いてこない。

もちろん制作側の意図が奈辺にあるかはうかがい知れない。以上はあくまでも享受する側の一解釈である。それにしてもなぜこういう映画を作ったのだろうか。優れて美しくセンスのよい映像(印象的な場面が多い)と心に染み入る音楽(ただしドビュッシーだけ、架空の歌手リリイ・シュシュの音楽はおもしろくない)を持ちながら、肝心の脚本と描写には絶望的なまでに映画としての訴求力を欠いている。けだし、岩井監督はたまたま14歳を題材に選んだだけで、それを主題化するつもりなどないのではないだろうか。被写体や作品世界そのものへの慈しむような愛の感じられない「リリイ・シュシュのすべて」は、五感に訴える部分には優れていても、作品としては魅力のない映画にしかなりえないと思う。

言わずもがなの追記:「Love Letter」よりは好きである。伊藤歩が中学生を演じるのは、当時としてもかなり無理があるのではなかろうか。

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コメント

>caoさん
この映画に対する印象は同じようなものを持っています。中学生はどうでしょうね、勝手にこういうものだと決めつけるなと反発するか、別にどうでもと突き放すか、いずれにしてもあまり共感するような人はいないのではないでしょうか。憂鬱な映画であることにも同意します。

投稿: morio | 2004.07.30 02:15

 リリィ・シュシュの音楽そのものはそれほど
良いと思わなかった。普通に聴けばどうということは無いインディーズ系のバンドっぽい
感じで・・・
きれいな風景描写と殺伐とした日常の描写によって聖性を与えられてるだけ。
 作品全体を貫いている救いようの無い閉塞感は理解できたかな。「エーテル」も、チャットでにわかに生まれた「絆」も付け焼き刃のように自分には思えた。
今もこれからも永久に何もないであろう世界とその住人に胸が締め付けられると同時に静かな輝きを見た気がする。
 現役の中学生が観たら一体どんな感想持つだろうか?
マジで尋ねてみたい。
自分は鑑賞後ニ、三日憂鬱になったけど・・・

投稿: cao | 2004.07.28 07:00

リリイさん、はじめまして。コメント、ありがとうございます。

さてご指摘の件について、私なりの考えを示しておきます。私は基本的に作品は個々で独立して評価すべきものであると考えています。つまり映画は映画だけで、小説は小説だけで、ということです。映画が原作本や掲示板の助けを借りないと独り立ちできないのであれば、それは映画として大きな欠点を抱えていると判断します。もし制作者が小説などを映画の補完物として位置づけるなら、劇場で配布するくらいのことが必要でしょう。そうしていないということは、岩井監督は岩井監督なりに、あの映画はあれで完結したものとして考えているのだと思っています。

もちろんリリイさんのおっしゃるように、小説や掲示板まで含めていくとその世界が豊穣になるというご指摘を否定するものではありません。機会があれば読んでみるようにいたします。

投稿: morio0101 | 2004.05.14 00:58

人それぞれ価値観が違い、僕がよいと思っても相手はそうでないといったことが多々あるので絶対的にこうだとは言えませんが、リリイシュシュ~を今現在最も優れた作品の一つとして捉えている僕から一つ問いたいことがあります。
小説の方はお読みになったのでしょうか?
岩井作品は様々な意欲作が多く、僕自身もスワロウテイルやピクニックといった作品などからとても刺激を受けていたため、その流れでリリイシュシュ~を見ました。最初見たときは正直上記の方と同じ気持ちになりました。しかし、その時に感じた違和感がいつまでも僕の脳裏から離れることはなく、自分で様々な手段を使ってリリイ~について調べました。すると、リリイ~の本髄というものを自分なりに解釈することができました。
元々、リリイシュシュという作品は、ネット上の掲示板で物語が進行していくといういまだかつてない試みの作品です。そこには岩井演じる数人の架空の人間をはじめ、一般の人間までが参加するという掲示板上での物語です。
そして、その掲示板上ではある事件が起き、映画で現されているのはその犯人が犯行を起こすまでの経緯を映像化しただけにすぎません。だから、第三者の目線で見れるあの手法が最も適していたのだと思います。
自分にはこの作品を言葉で表すには力が足りません。これを呼んで興味を持った方がおられたのならば、ぜひ小説(掲示板に掲載されたものを岩井が編集したもの)を読んでみて、その上でもう一度映画を見ていただけたらと思います。

投稿: リリイ | 2004.05.13 08:24

>ちはるさん
こんにちは。トヨエツの変な関西弁、そうでした、あれも見せる気を失せるには十分なパワーを持ってました。うまくそれぞれの地方のことばが操れないのなら、「Love Letter」に限らず、いっそのこと場所を変えればいいのにと思うこともしばしばです。

>きまたさん
あまり奇をてらわずに素直に撮れないのかなと思います。本人の風貌かぁ、まぁ、いろいろな入り方がありますよね(笑)。

投稿: morio0101 | 2004.04.15 01:10

俊ちゃんの作品は、好きなのと嫌いなのの差が激しい。
本人の風貌は、好き(笑)。

投稿: きまた | 2004.04.13 23:12

こんにちは。私も岩井俊二監督の映画は好きですが、「Love Letter」は嫌気があります。神戸を舞台にしているといいながら、変な関西弁を喋るトヨエツが原因ではないかと思っていますが。

投稿: ちはる | 2004.04.13 08:31

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