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2004.05.30

幻の光

本年度のカンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を史上最年少受賞した柳楽優弥。14歳の日本の中学生を主人公にする「誰も知らない」は今夏公開予定であるが、この作品を撮った是枝裕和監督の初作品が「幻の光」である。宮本輝の同名小説を原作とする。国民年金未払い問題で、悪役から一転功労賞ものという声すら聞こえる江角マキコは、この作品で俳優デビューを果たしている。

尼崎。貧しくも慎ましやかな生活を送っていたユミコの一家には、痴呆症の祖母が同居していた。ある日祖母は故郷の四国で死にたいと言いながら失踪する。それを引き留められなかったユミコにはトラウマとしてその事件が残ることになった。やがて成人したユミコは幼なじみと結婚し長男を得る。幸せな生活もつかの間のこと、夫はユミコと生後三ヶ月の赤ん坊を残し自殺してしまう。またしても夫の変化に気づくことができず、引き留められなかったユミコは、精神的に大きなダメージを受ける。そして数年後、彼女は北陸の漁村に嫁いでいく。そこでの生活は満ち足りたものであったが、祖母や夫を奪ったのは何者なのかを考え続けることになる。

重い内省を描くことを主題とする映画であるが、台詞や独白を活用することはない。かわりに美しい風景描写が多用される。これらは時々の作中人物の心象風景として象徴的に機能している。映画の進行に合わせて変化する風景は、そのまま主人公ユミコの心の変化を表しているのである。したがって与えられた風景から我々は想像力を駆使してその意味を解釈する必要がある。それをしなければただ冗長な時間を過ごすだけになってしまうだろう。なんとも難しい映画である。しかし、知的作業を強いられる分、手応えや満足感は相応に重く大きい。繊細で美しいピアノ演奏の音楽とともに、観賞後に静かな余韻に浸ることができた。

唯一にして最大の欠点は、出演者がまともな関西弁を話せないこと。この点は許しがたいほど酷い。これだけ西の地方を具体的に描くのであれば、方言指導者をつけてきちんとやらせるべきである。そうすることでこの映画の完成度はよりいっそう高められるだろう。よい作品であっただけに惜しいと思う。

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コメント

>Muさん
川島芳子といえば劇団四季のミュージカル「李香蘭」を思い出します。ここでは保坂知寿という看板俳優が演じていましたが、確かに江角マキコと同じような体型・雰囲気の女優です。

役者が関西弁を使えないのなら、舞台設定を変えて作るべきだと思います。不自然でいけません。

>atcyさん
待ち伏せしてたんですね(笑)。検索しました。「落下する夕日」を見ていました。たぶんウルトラシリーズのどれかも見ていると思います。日本最高の撮影監督ですか。また具体的なお話を聞かせていただければ嬉しいです。「鏡の女たち」は公開時に見逃しました。私もぜひ見たいと思ってます。裏から手を回したら、ついでに私にも回して下さい。:D

投稿: morio0101 | 2004.05.31 22:39

最近の珍さんのエントリーを読んでいて、そろそろここに来るだろうと思っておりました。(笑)
中堀正夫で検索しましょう。仕事の内容も人格的(!)にも、日本最高の撮影監督で、私も大いに尊敬させて戴いております。吉田喜重監督の新作「鏡の女たち」がなかなか見れないもどかしさをどう表現すればいいのでしょう。というか、裏から手を廻せば見れるんだけどさ(爆)。

投稿: atcy | 2004.05.30 14:22

morioさんの映画、文藝時評は、別世界がおおいのですが。
この、江角マキコという女優は、私もちょっと興味あります。
「流転の王妃」という満州もので、川島芳子役をやっていて、拳銃を向けた英姿が忘れられません。
関西弁は、以前もなにかで描いておられましたね。

投稿: む | 2004.05.30 05:59

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