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2004.06.08

深呼吸の必要

篠原哲雄は好きな監督である。出世作となった「月とキャベツ」に始まって、「洗濯機は俺にまかせろ」「きみのためにできること」「はつ恋」「けん玉」などは、どれも身近な生活を題材にし、淡々とした描写で家族や恋人たちのかすかな心の揺らぎを感じさせてくれた。

しかしながら、ここのところの篠原監督は豪華キャストを擁した大作に取り組むことが多く、しかも映画の出来が派手なだけであとに何も残らないという寂しいものであった。「命」(江角マキコ・豊川悦司・筧利夫・麻生久美子・寺脇康文・平田満・樹木希林)、「木曜組曲」( 鈴木京香・原田美枝子・富田靖子・西田尚美・加藤登紀子・浅丘ルリ子・竹中直人)の2本が最たるもので、そのほか「オー・ド・ヴィ」(岸谷五朗・鰐淵晴子・小山田サユリ)や「昭和歌謡大全集」(松田龍平・安藤政信・樋口可南子・岸本加世子・池内博之・細川ふみえ・近藤公園・鈴木砂羽)なども賑やかなだけで冴えたところがなく、焦点が定まらない。この映画と同時に公開されている「天国の本屋 恋火」(竹内結子・玉山鉄二)もこちら側か。

深呼吸の必要」は久しぶりに篠原監督が原点に回帰した映画であった。沖縄の離島にそれぞれの事情を抱えた若者が集まり、約一ヶ月間、ひたすらサトウキビの収穫をするだけの話である。物語の中で若者たちの参加の動機が描かれることはほとんどないし、1か月後に彼らの問題が解決したのかどうかも明らかにされない。つまりドラマがない(もちろんちょっとしたものはある)。あざとい設定もない。若い男女が集まれば、お決まりのように描かれるはずの恋愛や葛藤もない。スクリーンに現れるのは淡々と繰り返される日常であり、その積み重ねが一人一人の生活となるという、誰にでも心当たりのある当たり前の時空間である。

これがたいへん心地よい。

沖縄の美しい自然が彼らの時間に静かに寄り添い、鑑賞者もまた彼らとともに安心して身を委ねることができる。「ならんあれぇ、はじめからしぃなおしぇしむさ(ダメになったら、最初からやり直せばいいさ)」というおじいとおばあのことばに導かれるまま、カメラは7人の若者の生活だけをシンプルに切り取っていく。等身大とは言うまい。ラストの盛り上げ方や人物の設定にややステレオタイプ的な臭さを感じないではないが、よけいな語りやエピソードを入れない展開には好感が持てた。音楽を担当した小林武史、マイ・リトル・ラバーの楽曲も映画の空気にぴたりとマッチしている。梅田ガーデンシネマで鑑賞。

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» 深呼吸の必要 [30歳独身男Kazuakiの映画日記]
「またまた泣いちゃったよ。今日は涙腺大開放(^_^;)。そして、キビ刈りがしたくなった。ジンワリとくる素敵な作品。」 あまり「観た」という話すら聞かない「深呼吸... [続きを読む]

受信: 2004.06.13 00:50

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