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2004.06.13

『長田弘詩集』(ハルキ文庫)

公園の空1

最初の質問
 今日、あなたは空を見上げましたか。空は遠かったですか、近かったですか。雲はどんなかたちをしていましたか。風はどんな匂いがしましたか。あなたにとって、いい一日とはどんな一日ですか。「ありがとう」という言葉を、今日、あなたは口にしましたか。  窓の向こう、道の向こうに、何が見えますか。雨の雫をいっぱい溜めたクモの巣を見たことがありますか。樫の木の下で、あるいは欅の木の下で、立ちどまったことがありますか。街路樹の木の名を知っていますか。樹木を友人だと考えたことがありますか。  このまえ、川を見つめたのはいつでしたか。砂のうえに坐ったのは、草のうえに坐ったのはいつでしたか。「うつくしい」と、あなたがためらわず言えるものは何ですか。好きな花を七つ、あげられますか。あなたにとって「わたしたち」というのは、誰ですか。  夜明け前に啼きかわす鳥の声を聴いたことがありますか。ゆっくりと暮れてゆく西の空に祈ったことがありますか。何歳のときのじぶんが好きですか。上手に歳をとることができるとおもいますか。世界という言葉で、まずおもいえがく風景はどんな風景ですか。  いまあなたがいる場所で、耳を澄ますと、何が聴こえますか。沈黙はどんな音がしますか。じっと目をつぶる。すると、何が見えてきますか。問いと答えと、いまあなたにとって必要なのはどっちですか。これだけはしないと、心に決めていることがありますか。  いちばんしたいことは何ですか。人生の材料は何だとおもいますか。あなたにとって、あるいはあなたの知らない人びと、あなたを知らない人びとにとって、幸福って何だとおもいますか。時代は言葉をないがしろにしている——あなたは言葉を信じていますか。

嶽本野ばらの『下妻物語』と一緒に買ってきた。以前、谷川俊太郎「朝のリレー」についてのエントリーで、谷川の熱心な読者ではないことを書いたが、そもそも詩自体に親しむ機会が少ない(自慢にならない……)。詩の場合は、多く高度に抽象化された表現を選び取っているため、小説などの散文よりも積極的に関わっていかないとその世界に入り込めない。そういう基本的性質が、私には荷が重いからである。

長田弘の詩は一見エッセイであるかのような姿を持つ。とても読みやすい。しかし、この詩集の巻頭に置かれた「最初の質問」を一読して、考え込んでしまった。なんでも中学生の国語の教科書にも採用されている詩らしいが、これはある程度年を重ねた者にこそ染みてくるものではないだろうか。疲弊した気持ちに新鮮な空気を送り込まれたような清々しさを感じた。

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コメント

>ru-ruさん
幸せのことを考えられる幸せをかみしめています。それ以上のことはなかなかむずかしいです。

投稿: morio | 2005.08.15 22:26

自然が好きで毎日空を見上げます。すごく奇麗な空を見れた日は心が和み幸せ〜を感じてます。しかし、幸せとは?。問うと「心が満たされること」との答えがいっぱいいっぱいの返事です。でも、自分の心が満たされたと感じても、同時に周りの大事な人達を同じように満たすことが出来ず涙が止まりません。
幸せとは・・・まだ答えが見つかっていないみたいです。

投稿: ru-ru | 2005.08.10 05:03

>ravさん
中学校のある教科書に載っているそうです。それを御覧になっておぼえていらっしゃるのかもしれませんね。ravさんがうなずきながら答えている姿が目に浮かびます。(^^)/

投稿: morio | 2004.06.17 22:21

この質問ね なんか知ってる・・・
教科書に載ってたのかな???

私も何度も読み返して
うなずきながら答えちゃいました。。。
明日もいっぱいYESと答えられるような
一日を送りたいなぁ・・・

投稿: rav | 2004.06.15 22:31

おお、ベスさん。「ここでは」久しぶり(笑)。年を喰ってくると、その日に何をしたかすら忘れがちになるので、この詩の問いかけは辛いです(違うか……)。他にもいい詩がたくさんあるので、ぜひこの本をお求めになって下さい。

で、今日、私は詩に出てくる「蜘蛛の巣」をピンホールカメラで撮影しました。気持ち悪いかも(笑)。

投稿: morio | 2004.06.15 00:23

詩は書くけれどめったに読みません。この詩はいいですねー。難解な言葉も意味不明な言葉も何一つないのに、深みがあって考えさせられる。忙しい毎日を送っていると、自分自身について考えることも忘れがちになりますが、たまにはこういう詩を読んでゆっくり考える時間をもちたいものです。

投稿: ベス | 2004.06.14 19:31

とてもシンプルな問いばかりが並んでいるのに、すぐに答えが出せなくて、しばらく考え込んでしまいました。なかでも「何歳のときのじぶんが好きですか。」なんて聞かれると、ほんとうに困ってしまいます。

ともあれyoさんにも気に入ってもらえて、とても嬉しいです。一つだけ答えを教えてくれて「ありがとう」:D。たまにこの詩のことを思い出して、自分自身を振り返るのもいいですね。

投稿: morio | 2004.06.14 03:10

両手で頬杖をつきながら何度も読んでしまいました。
質問に答えながら自分と会話しました。
答えは教えられません。
ひとつだけ もりちんに教えます。
今日ありがとう 言いました。
素敵な詩と巡り会わせてくれて
ありがとう もりちん

投稿: yo | 2004.06.13 18:14

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