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2004.08.14

サンダーバード

カウントダウンとともにオープニングのアニメが始まり、あのテーマ曲が流れ始めた。モダンにアレンジされているが、紛れもない「サンダーバード・マーチ」である。鳥肌が立ち、全身が痺れた。懐かしい友達が帰ってきた。しかし……。

国際救助隊サンダーバードは世界各地で発生する災害から人々を助け出す謎の組織で、今や世界的なヒーローとなっている。しかし、かつて彼らに救助してもらえなかったことを逆恨みするフッドは、サンダーバードに復讐を企んだ。フッドは宇宙空間に浮かぶ5号をミサイルで攻撃し、その救助に向かった兄弟のいない本拠地トレーシーアイランドを乗っ取ることに成功する。すべての制御を敵に奪われたサンダーバードは最大の危機を迎える。この危機から兄弟や父親を救うため、まだ正式隊員ではないアランが仲間とともに反撃に転じたのだった……。

イギリスと日本以外ではほとんど知られていない「サンダーバード」が、ハリウッド資本によって実写化されると知った時、勧善懲悪を強調した単なる冒険活劇になったら嫌だなと思った。果たせるかな、その心配は現実となってしまった。これはかつてのサンダーバード物語の前史で、末弟のアランがサンダーバードに加入するきっかけになる事件を描く。誰からも認められなかったアランが絶対的なヒーローとして悪と対峙し、最後は勝利を収めることで望みのものを手に入れる。けだし、ハリウッド映画の常套手法であろう。そしてそれはオリジナルのサンダーバードが持っていた最大の魅力を消し去ることになってしまった。

オリジナル・サンダーバードは、高度に発達した科学技術がひとたび暴走すると人知の及ばない大災害をもたらすという、まさに21世紀の我々が直面する問題を40年も前にテーマ化していたのである。このドラマの魅力は、善悪の戦いにあるのではなく、人類の存在を揺るがすほどの大災害から人々を救助し、過信しすぎた科学技術へ警鐘を鳴らし続けたことにある。この先見性に先進メカが組み合わさって、かつての子供たちは熱狂したのである。それはあたかも小さな子供が赤い異形の車に乗る消防士に憧れるのに似ている。

その視点を失ったハリウッド・サンダーバードは、続編を作ることになっても次々に敵役を生み出すしかないだろう。技術は最新にして旧態依然の内容しかない空疎なハリボテ映画にしかならない。たとえば原子力発電所の深刻な事故をきちんとした科学的な根拠を提示しながら救助活動をする、超高層ビルで発生した同時火災(911が脳裏をよぎるが)から人々を助け出すなどという今日的な問題を扱ったならば、さらにこの物語の歴史に厚みというものを加えることができたと思う。

近年のハリウッド大作は日本語吹き替え版が必ず作られる。今作はアイドルグループのV6が担当した。それはそれでよいのだが、なぜ昼間の時間帯は吹き替え版ばかりが上映されているのだろうか。字幕版は多くの劇場で夜の部1回限りというところが多いようである。V6は主題歌の日本語版も歌っている。アイドルグループのプロモーション映画として使われるようなサンダーバードには、当然魅力はない。昔の友達も随分変わってしまったということか。ワーナーマイカルシネマズ茨木(レイトショー)で鑑賞。

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コメント

> 蓑笠亭主人 鋤谷九郎さん
コメント、ありがとうございます。ハリウッド版はレンタルで観るくらいでちょうどいいと思います。「6号」はかなり前に見ております。いずれにしてもオリジナル版の精神や志を引き継がないものは、どんなに派手な造りをしても心に訴えてこないですね。

投稿: morio | 2004.08.24 22:22

やはりそうでしたか。宣伝自体から、ハリウッド臭がしていましたので、見る気は全くなかったのですが、やはり見なくてよかったです。個人的には「サンダーバード」は劇場版「サンダーバード6号」で完全に完結していると思います。あれは、全サンダーバードシリーズの最高傑作だと確信しております。高度になりすぎた科学文明に対する皮肉と危惧を余すことなく表現しています。一見の価値アリです。

投稿: 蓑笠亭主人 鋤谷九郎 | 2004.08.23 16:55

>MIUさん
いいなぁ、DVD持ってるの? ほしいけどボックスセット、高すぎ。決してサンダーバード原理主義者ではないのですが、ハリウッド版はあまりにも違うと思います。映画でサンダーバードを初体験する人は、大いなる勘違いをすると危惧します。やれやれ。

投稿: morio | 2004.08.18 02:40

オリジナルDVD満喫組です。
私は先行の映画批評で叩かれていたので見ない方を選びましたが、やは誰が見ても同じ感想のようですね。
最近のテレビ化で初めてファンになった子供とその親たち。つまり、リアルタイムで見てない人たちがこぞって出かけているとおもうと、大変忍びない。メカの活躍を最大限に期待しているだろうし。
口直しのdiskが売れる確率高しとみた。

投稿: MIU | 2004.08.17 17:22

>ぽた郎さん
おお、「サンダーバード」ファンでしたか。私の評の信憑性はともかく、あからさまなハリウッド化に失望したのは事実です。続編では戦闘用の武器も搭載するのではないかと危惧します。レンタルになってから、暇で仕方のない時にどんなのか確かめてみて下さい。

>もりさん
子供ばかりで正隊員や救助メカがほとんど活躍しない展開にイライラさせられました。

>freeplayさん
これを見たあと、オリジナルのDVDがほしくなりました。口直しってやつですね(笑)。幸い、今のところ踏みとどまっています。あの二人の声、確かに擦り込まれています。やってくれるかな。

投稿: morio | 2004.08.16 00:39

最初そうでもなかった「スパイダーマン2」は、予告編を観るにつれて期待度が高まって観に行ったんですが、「サンダーバード」はその逆^^;
なんか予告編観るたびに最初の期待がどんどん小さくなって、今ではほとんど観に行く気が失せてしまいました。どうやらmorioさんの感想を読む限り、それで正解のような気がしなくも…。

ところで、吹き替え版だったら「あの二人」は「黒柳徹子」と「大泉 滉」じゃなきゃ絶対イヤです。

投稿: freeplay | 2004.08.15 14:34

わたしの感想はアントニオ・バンデラスの出ていないスパイキッズ。
サンダーバードの実写化は、謎の円盤UFOで既に実現していると思ったほうがいいですね。

投稿: もり | 2004.08.14 16:53

うーん。サンダーバード,見に行こうかどうか迷ってましたが,やめました。morioさんの映画評だったら信用できます。(^^) やはりしょせんハリウッド。勧善懲悪二元論にしかならないのですね。予想はしてましたけど,一縷の望みを託してたけど,やはりそうなのか。それしかないのか。虚しいですね。

投稿: ぽた郎 | 2004.08.14 16:32

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