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2004.09.21

『日本の島ガイド シマダス』(日本離島センター)

小学校の頃から地理という科目が大好きであった。なぜか。「思いを馳せる」という行為をこれほどまでに知らしめてくれるものが他になかったからである。

ご存じの通り、地理は客観的(無味乾燥ともいう)に示されたデータや記述を丸暗記するものというイメージが強く、あまり人気のある科目ではない。しかし、私にとっては、一つの数字、一片のことばが、無限の広がりを持つ世界の貴重な切れ端のように思われた。そしてそれを手がかりにして、自在に想像の世界に遊び、かの地へ思いを馳せることをもっぱらにする。何という愉悦。どこの土地がとか、あそこに行きたいとか、そういう具体的現実的な欲求はなく、ただひたすら知らない土地に「思いを馳せる」のである。

日本の全有人島と主要な無人島、計千島以上のデータを整理した『日本の島ガイド シマダス』は、まさに私のような地理好き人間のための書物である。寡聞にしてこれまでその存在を知らなかった。「人口・面積」「交通」「プロフィール」「みどころ」「特産物」「やど」「生活」「学校」「お医者さん」「ひと」など、島とそこでの暮らし全般に関する情報が、文字通りデータとして並べられている。読者はそのデータを手がかりにして、島の人や生活のことを思う。一言一句疎かにしてはいけない。

たとえば本の中ほどを適当にひもといてみる。愛媛県宇和島市の「日振島(ひぶりじま)」が現れる。「歴史と神秘の島」と銘打たれたこの島の人口は483人。産業の75%は漁業である。高速船、普通船合わせて一日四便が宇和島港へ運行している。児童数27名の小学校がある。中学はない。特産物は、ハマチ・スルメイカ・タイ・アワビ・サザエ・ヒジキ・テングサ。

ああ、なんだかわくわくしてきた(笑)。

そしてこの島の「くらし」。「生活」の項を引用してみる。「島では漁業が盛ん。若い人たちも増えている。ソフトボールチームがあり、夕方になると船に乗り込み宇和島に試合に出かけたりする。」生活の中心は漁業とソフトボール! 船は一日四便だから、おそらくソフトボールチームの面々はそれぞれの持ち船で宇和島へ行くのだろう。まるで私たちが自転車や自家用車で草野球をしに行くようにだ。しかも普通船で三時間弱かかる距離である。帰りはどうするのだろう……、いやいや、その心意気やよし、である。漁を終えたら同じ船でソフトボールをしに行く、そして帰ってくる、すぐにでも小説か映画になりそうである。ちなみにこの日振島、承平・天慶の乱を起こした藤原純友が本拠とした島としても有名である。

とにかく楽しくてやめられない。執筆担当者によって文章に愛情の温度差があるのも、リアルな人間模様を感じておもしろい。こんな素敵な書物の存在を教えてくれたぽた郎さんに、心から感謝申し上げます。

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コメント

>Muさん
おもしろいです。私にとっては『新明解国語辞典』級のお楽しみになりました。

投稿: morio | 2004.09.23 00:21

 おもしろそうな本があるのですね。
 映画や小説よりもよさそうです。
 morioさんの解説、紹介記事がよいのかも。

投稿: Mu | 2004.09.22 04:50

>Michiyoさん
地理学専攻ですか! そんなMichiyoさんが探す『シマダス』、やはりただものではなかったということですね。買ってきてから、机上に置きっぱなしで、ついつい手に取って読みふけってしまいます。愛媛の島にしたのは、私が愛媛ファンだからです。来島の記述に笑わせてもらいました。「島じまん みせ 食料品・雑貨屋1軒」。これって、何を自慢しているのでしょうか。:-)

>しきはんさん
その本も並んでました。どちらかといえばガイドブック寄りの内容ですよね。離島で針穴三昧、とてもいい!

投稿: morio | 2004.09.22 00:49

『シマダス』を買いに行って隣りに積んであった講談社の『島 日本編』を買ってしまいました。こっちの方が値段がお安かったのとカラー写真が多かったから。こういう本を読んでいると離島に行きたくなる...というよりも生活してみたくなりますね。

投稿: しきはん | 2004.09.21 23:48

おお!シマダスかわれたんですね!
私も最近は本屋に行くたびに探しているのですが・・・。
まだ見かけたことがありません。うーん。早くほしいです。
そんな私は実は、大学で地理学を専攻しておりました~(笑)
愛媛出身の私としては、日振島が紹介されてどきどきしています。

投稿: Michiyo | 2004.09.21 02:21

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