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2004.10.30

牛腸茂雄と野村恵子の写真集

最近、手に入れた写真集の話。

牛腸茂雄の名は飯沢耕太郎の書いた文章で知った。幼年時に煩った脊椎カリエスのために身体的に大きなハンディキャップを背負ったこの写真家は、わずかに3冊の写真集を残しただけで夭折した。牛腸自身のセルフポートレイトと霧の中に走り去る子供の群れの写真が特に印象的であった。彼の作品はなかなか手に入れにくいものであったが、今夏、東京と山形で開かれた展覧会に合わせて、彼のすべての著作をまとめた写真集が刊行された。それが『牛腸茂雄 作品集成』(共同通信社)である。先の2枚の写真ももちろん収められている。どの写真も息を潜めて世界を見ている感じがする。動きのあるスナップも、そこにシンクロするというより、対象と距離を置いた静けさのようなものを感じるのである。どこまでも静謐な世界。瞬間的に切り取っているはずなのに、じっくりと人間を観察したような写真。思慮深いというのはこういうことを指すのだろう。

atcyさんに教えられた野村恵子の『DEEP SOUTH』(リトル・モア)には、写真集全体が発散する濃密さに圧倒される。沖縄を撮影したこの本の濃密さや力強さを「沖縄らしい」というわかりやすい言い方で説明するのは、おそらく間違っているだろう。それは「らしさ」ではなく、「本質そのもの」だからである。「らしい」と感じるのは、往々にして外部の人間の思い描くステレオタイプ的な世界観や偏見に基づくものである。野村恵子が撮影したのは「沖縄らしい」ものではない。「沖縄そのもの」である。南国情緒やリゾート感を前面に押し出した観光地としての沖縄は、確かに私たちにわかりやすいイメージを与えてくれる。しかし、ここにはそのような沖縄は描かれない。戦後の沖縄がどのように形作られ、今に至っているのか。直接的ではないけれど(基地や兵士は登場しない)、かの地の人の生活をまっすぐ捉えることで、彼らの今のありようと痛みが強烈に感じられる。

二人の写真集を見るにつけ、自分の甘さを思い知る。

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コメント

>あち
最初は彩都メディア図書館で手に取って、と思っていたのですが、見終えたその足でショップに向かい買っておりました。野村恵子という人についての知識は何も持たずに写真を眺めていました。しかし、通りすがりの沖縄スナップではありえない迫力や切実さに唸っておりました。中の写真も好きですが、表紙と裏表紙の2枚がとても印象的です。

投稿: morio | 2004.11.01 17:46

珍さんはこの写真集(DEEP SOUTH)を買うと思ったよ。というか、この写真集を人に勧めるとみんな買うんだよねえ。(笑)
少しだけ補足すると、野村恵子は大阪出身の写真家なのだけれど、両親のうちのどちらかが沖縄出身らしく、この写真集は自分のルーツを見つめ直そうとした旅の物語のようなのです。
優れた写真には必ずバックストーリーがあって、写された情景の外側からその物語が発酵したように匂ってきて、それに気付くといつしか写真を見るのではなく、物語を読んでしまうようになります。文章で書かれていない物語なので、読者の自由と裁量が大きく、それ故読者は自己を投影しやすい。そしていつしか物語を個人的な想いを含めて写真家と共有するようになります。そんな訳でみんなこの写真集を買う訳ですね。(久々に上手く着地出来た予感・笑)
そういえばロンドンのフォトグラファーズ・ギャラリーにもこの写真集は置かれていて、存在感を出しておりました。

投稿: atcy | 2004.10.31 11:40

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» 山形美術館にて「牛腸茂雄 1946-1983」を観る [単身赴任 杜の都STYLE]
山形美術館で牛腸茂雄を鑑賞しました [続きを読む]

受信: 2004.10.31 07:43

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