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2004.10.09

花とアリス

論理的なドラマだけを展開するのではなく、また感覚的な映像美のみを追求するわけでもない。いい意味での緩い作りがとても好ましく、私にとっての岩井俊二作品のベストとなった。2時間15分、決して長くはない。

花(鈴木杏)とアリス(蒼井優)は幼なじみである。冬のある日、花は通学途中に見かけた高校生・宮本(郭智博)に一目惚れする。春になり、二人は宮本のいる高校に進学する。なんとか宮本に近づこうとする花は、彼の所属する落語研究会に入ったところ、ある事件が起きる。花はそのチャンスを逃さず、宮本を記憶喪失だと暗示にかける。そして自分は宮本から愛の告白をされたと言い含めるのであった。その嘘を取り繕うため、さらに嘘をつくことになる花。やがてアリスまで巻き込む大騒動となるが、今度は宮本がアリスに恋心を抱くようになる……。

もとはショートフィルムとしてネットで配信されていた作品の劇場公開版である。主役の二人、鈴木杏と蒼井優がとてもよい。それぞれが与えられたキャラクターを明確に演じており、時にシリアス、時にコミカルな凸凹関係は、女性版「弥次喜多」(旅はしないけれど)を見るような思いがする。前作の「リリイ・シュシュのすべて」について、「優れて美しくセンスのよい映像と心に染み入る音楽を持ちながら、肝心の脚本と描写には絶望的なまでに映画としての訴求力を欠いていた」とかつて述べたことがある。それはあまりにも作中世界のすべてを没個性的に一般化しすぎたことによる。ステレオタイプ化された総体としての「14歳の心理と行動」には目新しさもおもしろさもなかった。それが「花とアリス」では細部を細部としてきちんと描いているため、物語そのものに沈潜しやすい。そして一人一人が生きている(登場人物を絞り込んでいるのが奏功)。しかもそこには美しい絵と音が満ちあふれている。描写は軽やか、だが存在は重い。

ああ、褒めすぎかもしれない。騙された人、ごめんなさい。書いていることに嘘はないつもりです(笑)。

花とアリス 公式サイト

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コメント

>あち
その記録映画の存在は知ってましたが、岩井俊二だとは思ってもみませんでした。レンタルで出ないとすれば、買うしかないんですね。汗くさい男のドキュメンタリーか、微妙に悩みますね(笑)。

投稿: morio | 2004.10.14 17:05

私としては岩井俊二といえば2002年の日韓同時開催されたワールドカップの記録映画「6月の勝利の歌を忘れない」なのです。劇場公開もされずDVDの発売のみだったような記憶があるのですが、いまだにレンタルビデオ屋にも出てこないところをみるとこのまま絶版なのかなあ。

投稿: atcy | 2004.10.13 22:07

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