« ハウルの動く城・続 | トップページ | 小谷野敦『評論家入門』 »

2004.11.26

島本理生『シルエット』

書き起こした文章の品の良さが印象的であった。

何ヵ月も何ヵ月も雨が降り続き、もしかしたらこのまま雨の中に閉じ込められるかもしれない。そう予感するような季節の中にいた。もちろん、わたし自身が。

高校生のわたしの、対人恐怖症的な心持ちを持つ同級生の冠くんや無邪気な大学生のせっちゃんらとの恋愛を描く。ストーリー自体には決して小さいとはいえないドラマがあるけれど、抑制の利いた筆致のせいか、意外なほどに静かな印象だけが残る。こうした淡いトーンは『リトル・バイ・リトル』でも感じたから、小説としての是非はともかく、島本ならではの色であると思う。

『シルエット』では雨や雪といった降るものが象徴的に使われる。それは時々の作中人物の心象風景ということでもあろうが、それらに包まれることによる閉塞感や他者と乖離した感覚が表されているとおぼしい。文庫本には収載されていない「単行本用あとがき」には、他者と関わる時の気持ちを描こうとしたとあったらしいから、その心的距離感に応じて天候が選び取られているのだろう。この喩として天候描写をはじめとして、直接的散文的な描写に頼ろうとしない点は、含みや余情が強く揺曳する詩的世界を思わせる。私は嫌いではない。

それにしても、である。同世代の綿谷りさや金原ひとみに比べて、芥川賞作家という肩書きを逃した理由を見出すことは難しい。むしろ二人に比べて早々に群像新人賞優秀作や野間文芸新人賞などを受賞したりしていたから、注目度では島本の方が高かったように思う。ただ唯我独尊の金原はともかく、この先も綿谷とは同世代の女性作家という括りで比較されることは免れないだろう。一時の流行で終わらない作品を生むのはどちらか。(講談社文庫、2004年11月)

|

« ハウルの動く城・続 | トップページ | 小谷野敦『評論家入門』 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/11234/2068951

この記事へのトラックバック一覧です: 島本理生『シルエット』:

« ハウルの動く城・続 | トップページ | 小谷野敦『評論家入門』 »