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2004.12.30

約三十の嘘

長島有里枝が『not six』という写真集を刊行した。彼女の夫を被写体にしたポートレイト作品である。書店で手に取ってざっと眺めただけなのだが、あまり見たくないようなもの(ご想像にお任せします)もあれこれと写っていて、そのまま棚に戻してしまった。写真そのものは嫌いではないのだけれどね。さて、自らの配偶者を直視した写真家といえば、ただちに荒木経惟のことを思い浮かべるが、彼が陽子夫人を写した作品はぎりぎりの断崖絶壁を歩くかのような緊張感が漲っていた。特に夫人の病と死から目を逸らすことができなかった時期のものは、必然的にそうならざるをえなかっただろう。対して長島の写真はどこまでもいい意味で俗っぽくかつ下品である。そこが持ち味だと思う。少なくとも川内倫子や蜷川実香のような心地よさはない。しばらく更新はされていないようだが、こういう子育てサイトが飛び出してきて、少しは写真の雰囲気も変わるのかと思ったが、さにあらず。長島有里枝は長島有里枝だった。

ipodその長島がスチールを担当する映画「約三十の嘘」(公式サイトでは長島有里枝の撮影した写真や壁紙が公開されている)。大谷健太郎監督にとって「アベック・モン・マリ」「とらばいゆ」に続く第三作目となる。私は前の二作の会話劇を大いに楽しんだクチなので、高揚した気持ちで映画館に出かけた。にも関わらず、即座に映画のことを語らないで長々と枕に長島ネタを費やしたのは、残念ながらこちらが期待したほどではなかったからだ。もちろん楽しめないということでは決してなく、相応におもしろかったのだけれど、もっと楽しませてほしかったというのが正直なところである。

土田英生の戯曲を原作とし、大谷監督と渡辺あや(「ジョゼと虎と魚たち」脚本)が共同で脚本を仕上げている。映画では、六人の詐欺師(椎名桔平・中谷美紀・妻夫木聡・田辺誠一・八嶋智人・伴杏里)がチームを組んで北海道で大仕事をする、その前後の豪華寝台列車「トワイライトエクスプレス」(大阪・札幌間)内の出来事のみが描かれる。この物語は詐欺行為そのものを描くことを目的としているのではないため、詐欺師としての仕事ぶりはいっさい出てこない。騙すことを本業とする彼らが、仲間といかなる付き合い方をするのか、信頼関係を築き上げるのかという部分に焦点を合わせている。

大谷監督が土田の戯曲を取り上げたのは、長距離列車という密室で虚実入り乱れた丁々発止の会話が繰り広げられる点にあるとおぼしい。それはまさに彼が得意としてきた会話劇の最良の舞台の一つであるだろう。しかし、どうもそれがうまく機能していないように思えたのだ。以下箇条書きで並べてみよう。

・密室での会話劇なのに、肝心の会話の切れが悪く、絡み方や深め方も今ひとつ。
・きちんと一つづつエピソードを積み上げている手応えがない。
・結末にもう少し意外性がほしい。あまりにも予測可能すぎて肩すかしを食う。
・役者がメジャーになったことで、大谷監督のアクが薄くなっているのではないだろうか。
・物語の鍵を握る伴杏里が不発。
・ゴンゾウはユニークだが、キャラクター商売(ゴンゾウ.net)に走る前にすることがあるだろうと思った。
・トワイライトエクスプレスに乗って北海道に行きたい。

最後のは関係ありませんでした……。スタッフによる宣伝日記もある。傑作群像会話劇になる予感もあったのに、これでは一部の邦画ファンだけに受けるような間口の狭い、いや、底の浅い映画(繰り返すが、相応にはおもしろい)になってしまったように思った。テアトル梅田で鑑賞。

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■監督 大谷健太郎 ■脚本 土田英生、大谷健太郎、渡辺あや  ■原作 土田英生 ■キャスト 中谷美紀、椎名拮平、妻夫木聡、田辺誠一、矢嶋智人、伴 杏里、ゴンゾウ... [続きを読む]

受信: 2005.01.04 00:30

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