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2004.12.26

青い車

どんよりと曇ったクリスマス翌日。寝ぼけ眼で日曜朝刊(いつもの朝日)の書評欄を開くと、この一年を回顧する特集が組まれていた。自分の守備範囲から遠いものとか、見逃していたものとか、この機会に手に入れておきたい本をリストアップする。そして今年のベストセラーに目を転じると、「今年はみんな、泣きたかった」という書き出しに導かれ、『世界の中心で、愛をさけぶ』(300万部)と『いま、会いにゆきます』(100万部)が登場する。続いて『冬のソナタ』上下巻(合わせて100万部)。どれも感動のドラマに溢れ、涙涙涙涙涙……。まさに老いも若きも恋愛ドラマで号泣の一年か。思えば、現状を無批判無条件に肯定する人しか権力者(ブッシュ&小泉)になれないし、ベストセラー作家(片山恭一)にもなれないと島田雅彦は言っていたなぁ。愛と正義か。どっちもふりかざされると痛すぎる。

同じ恋愛ドラマを中心に置きながら、涙で浄化どころか、ずっしりと重い荷物を持たされたような疲労感を覚える映画を観た。奥原浩志監督「青い車」である。しかし、この疲労感は、感動と涙の嵐に翻弄されてくたくたになった身にはとても心地よい。

子供の頃に事故に遭い、目元に傷が残ったリチオ(ARATA)は、「生きているのがラッキー」だと思い、日々、孤独や苛立ちを感じながら生きていた。彼にはアケミ(麻生久美子)という恋人がいるものの、本気でのめり込むような恋愛感情を感じているわけではない。アケミはアケミで、そんなリチオを理解しきれず、同じように深い孤独感を覚える。ある日、出張先でアケミは交通事故にあって死ぬ。「ずっと幸せならいいな」と言っていたアケミがあっけなく消え、今、リチオの前にはアケミの妹のコノミ(宮崎あおい)がいる。コノミもまた退屈な高校生活に飽き飽きし、姉に内緒でリチオに会っていたのだった。事故の前日、その秘密を姉に打ち明けたコノミ。姉はどんな思いを抱きながら死んでいったのか。互いに愛情を感じながら、何もわかりあえない人々……。

よしもとよしとも原作の漫画が下敷きになっているが、映画化に際して大幅にアレンジされている。「ただ、どうしようもなく、好き。」といいながら、心の奥底で他者とつながりえない孤独感に苦しむのは、決して作中の人物たちだけのものではないだろう。「青い車」の人々は、生きていることそのものに深い猜疑心を持ち、誰一人として現状を肯定しない。彼らは世の中を諦めているわけではないから、苛立つことや腹立たしいことも多い。理不尽なこともある。人とわかりあえなくてつらくもなる。そうしたありきたりな日常の中にあるさりげない孤独や退屈や諦めに翻弄されながら、それでも生きていかなければならない現実をきちんと精算しようとしている。そこが重い。

恋人を失う悲劇。「世界の中心で、愛をさけぶ」を童話として捉えた行定勲(「文藝」2004年春号インタビューでの本人談)。甘くなって然るべきだろう。対する奥原浩志は別の方法論を選択した。それだけのことである。それにしても、どうしてみんな、そんなに泣きたいのだろう。私にはよくわからない。梅田ガーデンシネマで鑑賞。

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コメント

やっちまいました。今日をすっかり逃してしまいました。
しかし、本当にmorioさんの書評、映画評に僕は目を開かされっぱなしです。きっと嗜好の違うところはあるのでしょうけど、すごく説得力があるので、なんだか自分の視界が広がる気がするのです。これからも楽しみに拝読します☆

投稿: 43210 | 2004.12.30 22:08

>43210さん
「青い車」はとても淡々とした寡黙な映画です。隙間は見た人がそれぞれで埋めてなされという潔さがよかったです。正解まで「こうだ!」と示されるとね。おっしゃるところの懐古趣味というか、保守的というか、安定志向というか、なんだかなぁと思うことが確かに多いです。

なおガーデンシネマでの公開は30日までなので、お急ぎ下さい。

投稿: morio | 2004.12.29 00:10

この映画、観てみたいな。ホント映画みない一年でした。こないだの「笑の大学」が実に久し振りで。
今年のヒット作、「みんな泣きたかった」ももちろん共通点だと思うのですが、そろって作劇も仕掛けもなにも「古臭い」と思うのですよね。新しいものが生み出せないのは日本に限った話ではありませんが、この世相全体的な懐古趣味的風潮、ちょっと気になっています。

投稿: 43210 | 2004.12.27 07:30

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