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2004.12.14

ロスト・イン・トランスレーション

渋くてかっこいい映画だと思った。趣味のよい大人が地に足をつけてきちんと作った映画である。なんだか軽いまとめだけれど。

ハリウッド・スターのボブ・ハリス(ビル・マーレイ)は、コマーシャル撮影のため来日した。しかし、慣れない異国にいる不安感に苛まれ、しだいに気持ちが沈んでいく。同じホテルには、写真家の夫(ジョバンニ・リビシ)の仕事に同行してきた若妻のシャーロット(スカーレット・ヨハンソン)が滞在していた。夫は仕事に追われるばかりで一向にシャーロットに構わず、彼女もまた言い知れぬ孤独と不安に襲われていたのであった。ある夜、ホテルのバーで居合わせた二人は、同じ心の揺れを持つことを感じ取り、急速にうち解けていく……。

コッポラといえば、フランシス・F・コッポラを思い出す私は、かなり遅れているかもしれない。この映画の監督ソフィア・コッポラはそのフランシスの娘である。これまで俳優やモデルとして活躍してきたという。

まず「ロスト・イン・トランスレーション」では絵が極めて印象的である。ここでソフィアが写真家としても活動していたことを思い起こすのもよいだろう。冒頭、来日したボブがタクシーの中から東京の煌びやかネオンの洪水に目を奪われるシーンがあるが、東京の俗悪さや胡乱さが見事なまでに美しさに昇華している。目が悦ぶと言っては言いすぎだろうか。異国の相貌に目を奪われるのはボブだけでなく、観客もまた同じ立場から映画の中に一気に引きずり込まれる。この後もステレオタイプ的に東京や日本を捉えるのではなく、なるほどこういう見方をするのかと思わされる描写が続く。とてもおもしろい。

ドラマも秀逸である。過剰な演出、押し付けがましい感動、嘘臭いドラマは用心深く排除されている。見知らぬ大人が異世界で親密になっても、その関係は進展することもあるし、しないこともある。さらに微妙な距離感を残して終わることもある。この点をドラマとして描ききった点に深く共感する。ビル・マーレイとスカーレット・ヨハンソンは、異文化の中の異邦人の不安、そして中年男と若い女性の関係を余計な感情表現をせずに丁寧に浮き彫りにした。

映画はユーモア、インテリジェンスにあふれ、演出には抑制が利いている。無理矢理感動させようとする煽りもない。なんでもかんでも「ホテルへゴー!」したり、「異国の中心で愛をさけべ」ばいいというものではないのだ。こういう映画がもっと多くの人に知られることを切に望む。

公式サイト

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コメント

>よ
確かに。早速レンタル屋でサントラ盤を探してみます(せこい)。

>み
かの君の理解度をうかがい知ることはできませんが、そのまま字幕、翻訳なしで見ようという姿勢から、さほど不自由してはいないのではと、好意的に推察します。微妙なギャグなどは日本語字幕でもほとんど無視されていることが多いですしね。「今、ようけしゃべってたやんけ、おら!」と思っても、字幕には一行しか出ていない……。まさに「ロスト・イン・トランスレーション」。それとよく似たシーンがこの映画にもあって、笑わせてもらいました。まだ見てないのだったら、ぜひどうぞ、宅配レンタル屋で(笑)。

>まこしゃん
見る人の趣味や好みはもとより、その時の立場や状況も評価に影響するのは必至ですよね。日々「ロスト・イン・トランスレーション」な日々をお過ごしになっていたら、多大なる共感を得るか、さもなくば「何を生ぬるいことを言いやがって、ふふふん」ということになるのでしょう。私は日本が舞台と言うこともあり、またそれをとても美しく描いていること、さらにまわりに人がたくさんいるのに、ちっともつながりあえないことなど、現代社会(同国人、異国人を問わず)の縮図を見るようでおもしろく思った次第です。

>winter-cosmosさん
御覧になりましたか。まず目からやられますよね。東京を綺麗に見せるのがうまいなぁと思いました。日本の描き方も、昔ながらのステレオタイプじゃないところが好ましいですし。変な先入観や偏見がないから、素直に物語を楽しめました。

投稿: morio | 2004.12.18 00:42

おすすめだけあって、絵も音も綺麗な映画ですね。それでいてお腹を抱えて笑えるところもあるし(笑)。
 日本人がもっているコンプレックスをチクッと刺されたり、誇りに思ってることをちゃんとわかってもらえているようで嬉しくなりました。
 綿帽子の花嫁の美しさには、息をのみました。女形の方が女性の美しさを知っているように(て言うのは変な例えかな)、異国の人から日本の美を教えられそうな気がしました。

投稿: winter-cosmos | 2004.12.17 10:47

yoしゃん、サントラ聞いたんだ〜!?
ワシャ聞いてないんだけど、映画で流れていた曲はほとんどブリティッシュだったね。
でも、実はワシがこの映画で楽しめたのはそのBGMだけだったりして
(あとは、知ってる顔がナニげにそこここに出ていたことか)
たぶん、ワシが楽しめなかったのは
『ワシの方がよっぽどロスト・イン・トランスレーションな日々を過ごしているわさ』と言う気持ちが強かったんだろうな〜。と人ごとのように推測。一緒に見に行った英人もピンとこなかった模様。
ともあれ主演俳優はよかった!(映画を見た直後、とあるイベント会場で見たスカーレット嬢は美しかったっす)

投稿: yuki | 2004.12.16 09:44

彼の君はいつもどこぞの輸入DVD屋で、一足先に(あちらの封切り直後に)入手してご覧になります。この作品もも良かったと勧められましたが、もう遙か昔で忘れていました。
彼はもちろんノーサブタイトルでの閲覧ですが、微妙なジョークや皮肉のニュアンスなどほんとにわかってるのか心配です。日常会話での単語でも知らないものが多々あるし、変な文法の文章書くし…ぶつぶつ。そのへんはやはり、ラテン語からの派生ということで容易に推測が出来るのでしょうか。
私も何度も字幕なしに挑戦しましたが、モンスターズインクでさえ挫折しました。かなりネイティブ入ってないとキツイですよね。
「おもしろかった?」と聞くと「つまらなかった」という作品が多いので、つい「ほんとに内容わかってるの?」と実際にきいてしまうこともしばしば。先日はついに切れてちゃぶ台をひっくり返されました。御免とはいいながらも、いらぬ心配と思いながらも、お母さんは何だか気になって仕方がないのよ。

投稿: miu | 2004.12.15 13:41

オリジナルサウンドトラックも気持ちいいです。
お試しあれ。

投稿: yo | 2004.12.14 20:52

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