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2005.01.03

恩田陸『夜のピクニック』

これが実質的に今年最初のエントリーである。映画「スーパーサイズ・ミー」とどちらにしようかと思ったのだが、読み終わってからしばらく経ってしまっている恩田陸の『夜のピクニック』にした。新春らしく爽やかに。まずは帯の文章を引用することにする。うまくあらすじがまとめてあるので(楽だし)。

夜を徹して八十キロを歩き通すという、高校生活最後の一大イベント「歩行祭」。生徒たちは、親しい友人とよもやま話をしたり、想い人への気持ちを打ち明け合ったりして一夜を過ごす。そんななか、貴子は一つの賭けを胸に秘めていた。三年間わだかまった想いを精算するために……。今まで誰にも話したことのない、とある秘密。折しも、行事の直前には、アメリカへ転校したかつてのクラスメイトから、奇妙な葉書が舞い込んでいた。去来する思い出、予期せぬ闖入者、積み重なる疲労。気ばかり焦り、何もできないままゴールは迫る……。

中心になるのはあらすじに登場する貴子である。彼女の賭けとは同じクラスに在籍する異母兄弟の融と話すこと。そして和解した後に長く付き合いを続けること。小説の結末はほぼ予想できる。したがって、その予定調和的な結末に向けて、どのような紆余曲折があるのか、そこまでの組み上げ方がこの小説の勘所となる。文章は平易で読みやすく、「歩行祭」の歩調よろしくリズミカルに前へ前へと進んでいく。しかもその「歩み」に次々と謎をかけるような出来事が起こるのだから、これはもう目が離せない。小説の早い段階でパチンとスイッチが入ってしまってからは、最後まで一気に読まずにはいられない状態になった。うまいと思う。

青春とノスタルジーと謎解き。題材なりの独特の臭みはあるが、そういうものに抵抗感がない人にはたまらなく魅力的な小説だろう。

長い歴史と伝統を持つ学校というのは、往々にして馬鹿げた行事を頑なに守り続けている。小説に描かれた「歩行祭」もそうであろう。当事者でいる時は、それらが何のためにあるのか、ちっともわからない。ところが、やり遂げたから何かがあるというわけではないのに、気がつくと寝食を惜しんで注力している。「やりたいからやる」というシンプルな考え方は、実行可能だった時代が遠くに過ぎ去った頃に時折蘇り、生への新たな力となる。そんな気持ちを呼び起こしてくれたという点で、収穫の多い小説であった。(新潮社・2004年7月)

このブログを始めて、先日の大晦日でちょうど丸一年になった。いつも読みに来て下さる皆様に心より感謝いたします。どうぞ今年もよろしくお願いいたします。

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コメント

>yuki
こちらこそよろしくお願いします。「密やかな楽しみ」とは隠微な大人の味わいですね(謎)。何となく背徳の響きがして素敵なんですが、「陳さん」という名前ですべてがぶち壊し。とほほ。

投稿: morio | 2005.01.04 02:31

こちらこそ今年もよろしくお願いいたします。
陳さんのblogは、いつも密かに楽しみにしているのです。
いや、密かに楽しまなくてもいいよな(笑)

投稿: yuki | 2005.01.03 11:59

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