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2005.01.06

スーパーサイズ・ミー

ここ5年くらいだろうか、ファーストフード店の物が食べられなくなってきた。無理に食べると、気持ちが悪くなるのである。自分の年齢を意識する瞬間である。とほほ。

植島啓司『快楽は悪か』(1996年、朝日新聞社)は「われわれをこれまで律してきた倫理・道徳に対して、徹底的に批判を加えなければならない」という立場から、世に行われている「偽善」を暴き糾弾するという、ある意味ではインモラルな放言に満ちた刺激的な書であった。要するに「そんなことしちゃいけませんよ」という常識的な忠告やお節介に対して、「うるせぃ! 何寝ぼけたこと言ってやがる!」と反駁するものである。刊行当時は結構話題になっていたし、植島の勤める大学にも苦情が寄せられていたらしい(あんなのがいるところには子供はやれない云々……、やれやれ)。

「他人に迷惑をかけさえしなければ何をしようが個人の自由だ。ヒステリックに批判するほうが間違っている。タバコ、酒、ギャンブル、セックス、自動車のどれにしてもそうだが、個人の嗜好は、だれによっても管理されるべきではないのである」と語る植島は、30代になって強度のハンバーガー信徒となった。何でも年間200食を食べていたとのこと。「正しい食生活」や「健康ブーム」を憎む彼はまた味の素も肌身離さない。個人的な快楽の前にはどんな説法も通じないし、それはそれで確かにとやかく言うものではない。しかし、こういう嗜好が社会の枠組みと衝突を始めたらどうなるのか。

もはや旧聞に属するが、アメリカで「毎日マクドナルドを食べ続けたから肥満になってしまった」と訴訟を起こした少女がいた。当人が好きなハンバーガーを毎日食べて太っていくことには何の問題もない。しかし、「マクドナルドがあるから、私は太ったのだ」となると、話は難しくなってくる。選択肢として「自ら食べない」というものがある以上、相手に全責任を負わせることは不可能だろう。受動喫煙の害とは違う。せいぜい食べたものと自らの肉体、精神の変化の因果関係をできるだけ科学的に証明するのが関の山である。

モーガン・スパーロック監督は自らの肉体を実験台として、この偉業(?)に挑戦した。「スーパーサイズ・ミー」は一ヶ月間毎日三食マクドナルド製品を食べ続けると、いったい人はどうなるかを検証しようとした映画である。ただしこれをノンフィクションの社会派ドキュメンタリーとして捉えるのは無理がある。あくまでもフィクションを排した脚色付きのエンターテイメント作品である。肉体や精神の変化という現象面での実験結果はおおむね予想の範囲だが(性生活へのあけすけなコメントを出す監督の彼女には笑わされた)、その先に透けて見える部分、すなわちジャンクフードがはびこる食生活の抱える根本的な問題がたいそう恐ろしく感じられた。政治や経済と絡むと、人間はどんなえげつないことでもやるのだ。子供の給食がオレンジジュースとチョコバーと冷凍フライドポテトとは……。

なお同じくエンターテイメント的ドキュメンタリーを得意とするマイケル・ムーアの新作のターゲットは製薬業界らしい。これまた切ればどす黒い血だの膿だのが吹き出しそうな対象である。日本にはこういう分野に挑戦する人はいないのかしら。ガーデンシネマ梅田で鑑賞。

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コメント

>み
有り体に言えば、「体に悪そうだし、太るだろうな」ということを、自分の体を使って確認してみましたという映画です。彼は1か月で十数キロ太り、肝臓が極めて危険な状態まで破壊され、性欲は減退、情緒不安定などの症状に陥りましたが、これらの症状のどこまでがマクドナルドの食事に関係するのかは不明です。ただ事実としてマクドナルドのものしか食べない期間にこうなったということが語られています。砂糖と油の害については、映画の中で触れていました。いやぁ、私、コーラ、好きなんですけど。あとハンバーガーの肉も怪しいのですが、それ以上にチキン系がやばそう。

投稿: morio | 2005.01.09 22:09

誰にでも展開が予想できるこのドキュメントをどうサゲるか。それに興味があったのですが、どうやら予想の範疇を超えないようですね。
テレビ番組で十分そうな内容を敢えて映画化、そして世界展開するまでのことはあるのでしょうか。ハリウッドスターにギャラを払うよりは圧倒的に安い制作費でできあがるでしょうが。
ふと思ったのですが、パン、生野菜、牛肉(自己申告)で構成された食べ物を食べ続けたくらいでそんなに顕著な弊害があるのでしょうか。ワタクシはむしろいっしょに口にするであろう、一升瓶ほどのコーラとバケツいっぱいほどのフレンチフライ(少々誇大)がいけないのではと思います。コーラの砂糖、揚げ芋の粗悪油は、間違いなく短期間で人の体をダメにします。もっとも自己申告の部分が本当に安全な牛肉であればのことですが…。

投稿: miu | 2005.01.09 01:29

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