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2005.02.09

パッチギ!

実家の母親が韓流ドラマに夢中である。私はといえば、何も見たことがない。テレビも映画も。あんまり無下にするのも気の毒なので、「冬のソナタ」のサントラCDを買って持っていったら、そればかり聴いている有様である。いや、私にはよくわからないのですがね。しかし、ペ・ヨンジュンやイ・ビョンホンが来日する度に中年女性を中心として追っかけが出現し、韓国のロケ地ツアーにも大挙して押しかけるという騒ぎなどを見るにつけ、これはこれで立派な文化交流かもしれないなと思ったりもするのであった。少なくとも汚らしい偏見や差別感から自由なところは、まちがいなくすばらしいと言える。相手を知ることは愛するために必要だから(うちの母に限って言えば、冷蔵庫に「ヨン様」の切り抜きを貼るのだけは辞めてほしい……)

concordeさて1968年の京都を舞台にした井筒和幸監督の「パッチギ!」。これは掛け値なしにいい映画だと思う。前作の「ゲロッパ!」は井筒監督の思いが空回りをし、西田敏行の芸以外はまったく語りようがない映画だっただけに(少なくとも私には)、「パッチギ!」の鮮やかさには心が震える思いがした。ここには「ガキ帝国」「岸和田少年愚連隊」の若さと野性味、「のど自慢」の叙情とユーモアがあり(いずれも井筒監督の代表作)、さらには「ロミオとジュリエット」や「ウエストサイドストーリー」などの古典的名作の恋愛のエッセンスもふりかけられている。井筒映画の集大成的性格を持っている本作は、監督のキャリアの中で大きな節目となるはずである。

京都の公立高校に通う松山康介(塩谷瞬)は、親善サッカーの申し込みに行った朝鮮高校でキョンジャ(沢尻エリカ)に出会う。キョンジャに一目惚れした康介は、彼女がフルートで演奏していた「イムジン河」を流行のフォークギターで熱心に練習する。祖国への帰国を決意したキョンジャの兄アンソン(高岡蒼佑)を祝う宴会で2人は合奏し、そのかいあって康介は彼らの輪に入ることができた。しかし、アンソンら朝鮮高校の生徒たちは日本人高校生との抗争を激化させる。康介は「在日」の悲劇をつきつけられ、アンソンは憎悪に身を焦がすばかりである。果たして彼らの未来はどうなるのか、そして康介とキョンジャの恋愛は……。

映画は日本人である松山康介と朝鮮人キョンジャの恋愛を軸として進む。その恋愛ストーリーにまとわりつくように様々な要素が盛り込まれるけれど、中心軸がぶれないため映画は一環して心地よいスピードで走り続ける。ここで効果的に使われているのがザ・フォーク・クルセダースの楽曲である。伝説の「イムジン河」に始まり、「悲しくてやりきれない」「あの素晴らしい愛をもう一度」の3曲が、あたかも映画の主題を受け渡しするかのように、若い二人や両国民の状況を的確に示しながらリレーされる。しかもこれらの曲は劇中の人によって自然に歌われる。台詞で心情を吐露する以上に強い印象を受けた。クライマックスの康介の「イムジン河」絶唱は涙腺の緩くなったおっさんにはメガトン級のパンチであった(笑)。「イムジン河」は現実の南北朝鮮問題を象徴するとともに、康介とキョンジャの間に横たわる壁、克服すべき存在として存在するのだった。

在日問題を扱っているからといって、「GO」(行定勲監督)のようなわざとらしさがなく、きちんと真正面から向き合っている点にも好感が持てた。全編にわたって1960年代の文化や社会のありようが描かれる。しかし、それらを知らなくとも映画の世界にしっかり沈潜して楽しむことができるだろう。温かな気持ちになるエンディングにおおいに救われる。小さい頃から知っているちょっと怖いことば「パチキ」。その語源たる「パッチギ」。「突き破る」とか「乗り越える」という意味を持つこの語は、映画の主題を見事に語り尽くしているだろう。ワーナーマイカルシネマズ茨木で鑑賞。

追記:9日にワールドカップアジア最終予選「日本対北朝鮮」が行われた。キョンジャの兄アンソンは、祖国でサッカー代表選手になり、ワールドカップに出場することを夢見る少年である。この試合でさまざまな感情を呼び起こされた人にぜひこの映画を観てもらいたい。

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■監督 井筒和幸 ■キャスト 塩屋瞬、高岡蒼佑、沢尻エリカ、楊原京子、オダギリジョー、光石研、笹野高史、余貴美子、前田吟    殴り合ったら、同じ色の血が流れた... [続きを読む]

受信: 2005.02.12 00:05

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