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2005.03.18

太田順一『ぼくは写真家になる!』

太田順一はドキュメンタリーを中心に活動する写真家である。在日朝鮮人に向き合う『女たちの猪飼野』(晶文社、1987年)、大阪に移住した沖縄の人々を撮った『大阪ウチナーンチュ』(ブレーンセンター、1996年)、ハンセン病に取り組んだ『ハンセン病療養所 隔離の90年』『ハンセン病療養所 百年の居場所』(ともに解放出版社、1999年・2002年)などの代表作は、いずれも重大な社会問題を扱っている。

困難な仕事である。被写体が社会的な弱者であればあるほど、余所者が自由に写すのはむずかしくなる。とりわけ大阪における在日朝鮮人や沖縄県人の過去は苛烈なもので、ふらりと立ち寄ってスナップを撮って終わりということには絶対にならない。ハンセン病問題もしかり。太田自身が写真家とは「そこにいた人」と定義するが、自然にそこに存在できるようになるまで、いったいどれほどの時間が費やされていることか。本書にはその撮影の過程での艱難辛苦が平易な文章で綴られる。

ドキュメンタリー写真は、こつこつと足で稼ぐよりほかに方法のない地味な仕事なのだ。

あとがきで「人間」を撮り、「人生」を撮り、「永遠」を撮りたいと太田は言う。長くプロフェッショナルとしてその世界で生きてきた人ならではの重みを感じる。岩波ジュニア新書には、大家権威が片手間に書いたとしか思えない箸にも棒にもかからないような手抜き本がある一方、こうした渾身の一冊もある。読みながら背筋が伸びる気がした。(岩波ジュニア新書、2005年2月)

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