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2005.05.16

角田光代・岡崎武志『古本道場』

今も実家のある街では、初夏から晩秋まで、六のつく日に夜店が並ぶ。月に三度のその日は小遣いを握りしめて、友達や妹と一緒に出かけていった。人のよく集まる場所には金魚すくいやヨーヨーつり、スマートボールなどの人気遊技があり、それらと競うかのようにたこ焼きやミルクせんべい、フライまんじゅう、綿菓子などの店が並んでいた。乏しい小遣いの大半はそのあたりでたいてい消え去ってしまう。

それでも夜店の列が途切れるところまで必ず歩いた。その切れ目にはいつも同じ店が二軒あった。一軒は植木屋、そしてもう一軒が古本屋である。これらの店があるあたりは街灯も少し暗くて、明らかに異世界という風情だった。子供にとって植木屋は興味を引くものではなく、またとりわけ本が好きというわけでなかったこともあって古本屋にもたいした関心はなかった(子供向けと思われる本も少しは置いていた)。結局、すべての夜店の前をきちんと歩く、そう決めているという理由だけで眺めているのであった。

しかし、この2軒の無縁だった店が、今も記憶の中に強く残っているのは不思議なものである。そして古書店との付き合いが切っても切れなくなってしまっていることも。縁とは異なものである。東京にやってきて楽しみにしていることの一つに、関西では難しい古書店巡りができるというのがある。いくらネットで本が買える時代になったとはいえ、古書独特の匂いに包まれた狭い店内で意外な書と出会う楽しみは、他では味わえない特別なものである。

古本道場』は、「古書初心者」の角田光代が「古書師範」の岡崎武志の出す課題にしたがって、東京各地の古書店を巡って買い物をしてくるという顛末を描くものである。なんだか古書の匂いまで感じるような気がして、微笑ましい内容だと思った。もちろん同じ店を探索したいと思ったのはいうまでもない。(ポプラ社、2005年4月)

付言:東京の書店事情がわからなくて、同僚に尋ねたところ、「ブック・ナビ東京」という本を教えてもらった。至便。

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受信: 2005.06.06 00:30

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