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2005.05.09

松樹剛史『ジョッキー』

「日本の競馬小説は数多い」と藤代三郎は本書の解説で指摘する。およそ20ほどがリストアップされた作品の中には、直木賞(新橋遊吉)や江戸川乱歩賞(岡嶋二人)、吉川英治文学賞(宮本輝)などを受賞した「大物」も名を連ねている。その中のいくつかは競馬に縁のない私でも読んだことがあるし、他にも寺山修司や古井由吉、吉村昭ら錚々たる面々が書く『日本ダービー十番勝負』(小学館文庫)や武豊の一連のエッセイ本(超一流の騎手は文章も読ませる)、さらに競馬ミステリーの傑作を続々とものすディック・フランシスの作品など、気がつけばそれなりに手を取っている。文芸作品ではないが、映画でも競走馬を扱ったものをやはり観ている。

ドラマがあるのだろう。栄光と挫折、勝利と敗北、成功と失敗。さらには夢やロマンも。時には恋愛もある。競走馬という選ばれたエリート(負け続ける馬もある意味ではエリート)を巡って、生産者、調教師、オーナー、騎手、そして彼らを見つめる家族やファンといった、さまざまな思いを持つ人々が存在する。そして強い求心力を持つレース(これは必ず盛り上がる)という山場も用意されている。つまりはドラマである。作品の巧拙、優劣はもちろんあるが、同工異曲の物語が大量生産されるのは、それなりの理由があるのだ。

『ジョッキー』は生活を保障されていないフリーの中堅騎手が主人公である。彼には金も人脈もないが、技術と誇りがある。なんだか設定があまりにもわかりやすくて、それだけで引いてしまいそうになったが、細部の描写に優れている物語にはうねるような緩急の妙があり、引き込まれながら一気に読み終えてしまった。ともすれば絶望的な境遇に陥りそうになる主人公を、愛情の注がれた軽妙な描写が救っている。深いという感じではないけれど、読後の爽快感はなかなかのものである。そういう気分を味わいたい時にはお薦めの一冊である。第14回小説すばる新人賞受賞作品。(集英社文庫、2005年1月)

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