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2005.05.03

村上春樹『象の消滅』

concorde村上春樹を読み始めたのは友人に勧められたのがきっかけで、ちょうど長編小説『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』(新潮社)や短編集『回転木馬のデッド・ヒート』(講談社)などが出た頃であった。1987年から86年あたりのことである。『世界の〜』にすっかり惚れ込んでしまった私は、手当たり次第に既刊の単行本や文庫本を読みあさった。『風の歌を聴け』『1978年のピンボール』『羊をめぐる冒険』『中国行きのスロウボート』『カンガルー日和』『螢・納屋を焼く・その他の短編』などの小説群、さらに『村上朝日堂』や『象工場のハッピーエンド』といったエッセイ集も手に取った。気に入ったものは読み終わった直後にまた最初から読み直したりもしていた。今はそんなことはできない。若かったのだと思う(苦笑)。そして1987年に大ベストセラー『ノルウェイの森』(講談社)が出ることになる。当時の甘酸っぱい思い出とともに、村上春樹の初期作品群の数々は強烈に脳裏に刻み込まれている。

新作『象の消滅』は実は新作ではない。この一書は、1993年にアメリカのクノップフ社から刊行された村上の初期短編集『The Elephant Vanishes』の日本語版なのである。ただし日本語版といっても英語に訳された作品を再翻訳したわけではなく、原則としてオリジナルテキストをそのまま収めている。したがってかつての作品を読んで知っている人間にはさほど魅力的なものではないかもしれない。しかし、当時の村上作品のトーンをこよなく愛する者にとっては、初期ベストアルバム的性格を持つ本書はとても素敵な贈り物に思える。実際はいくつかの作品には村上が手を入れているし、「レーダーホーゼン」という短編はアメリカの雑誌に掲載されたショートバージョンを新たに日本語に翻訳して収録している。まるでセルフカバー・アルバムのようではないか。装幀もアメリカのペーパーバックのような雰囲気に満ちていて、とても洒落ている。村上春樹の初期を味わいたい人と味わい直したい人に。(新潮社、2005年)

村上モトクラシ(公式サイト)

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コメント

>ぽた郎さん
入院生活、お疲れ様です。順調にご回復のご様子、ブログで拝見しております。ご快癒までご無理なさらないように。

村上春樹の魅力についてはおっしゃるような点に強く賛同いたします。加えて気配や空気感という部分(世界観というほど大袈裟ではない)がとても気に入っています。どんな内容やテーマであっても、常に軽やかさや風通しのよさのようなものを感じます。同じ村上でも龍は熱すぎてちょっと苦手です。

投稿: morio0101 | 2005.05.04 19:18

お,morioさんも村上春樹ファンでありましたか。意外というかなるほどというか。(^^; 実はワタシも結構ファンです。(その割には今頃『海辺のカフカ』を読んでたりするけど。) 私も一番好きなのは『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』です。村上春樹の「世界を外から眺める視点」が好き。感動や感情移入を強要しないのも好き。ちなみに,村上作品の主人公に感情移入して読んでる方も多いですが(その最たるが『ノルウェーの森』),それはハッキリ言って誤読ではないかとさえ私は思ったりします。:-)

投稿: ぽた郎@入院中 | 2005.05.03 08:25

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