« 星になった少年 | トップページ | 角田光代『あしたはうんと遠くへいこう』 »

2005.08.06

亀は意外と速く泳ぐ

自分の立ち位置はよくわからないものである。ある人にとっての「普通」や「平凡」は、往々にして他者にとっての「特別」「非凡」であることも珍しくはない。この場合の「特別」「非凡」というのは、もちろんよい意味だけでなく「えっ、それはちょっと……」という方面も含む。優劣などという価値観を持ち出したいわけではない。かっこよさげな人たちが歌う気持ちの悪い「世界に一つだけのナントカ」じゃないけれど、それぞれに存在理由があるはずだから(なんか偽善ぽいな)。

家に自転車が7台(家族のも含めて)あるとか、カメラがあれこれ合わせて14台(家族のも含めて、しつこい、笑)あるとか、「世間にはもっとすごい人もいるから、きっとこれはたいしたことではない」などと思いたいがため、自分を正当化するため、そしてさらに数を増やすために、比較対象をあらぬ方向に求めたりするのだった。ああ。

平凡が視点を変えることによって突然平凡でなくなる。平凡な日々の生活の中にも、実は驚くべき不可思議な事象が満ちあふれている。「亀は意外と速く泳ぐ」はドラスティックとはいいがたいけれど、「市井の人の生活」という枠組みを微妙にパラダイム変換するおもしろさを見せてくれる。小ネタ的な出来事に気付くことが、どれほど生活に彩りを添えることになるのか。

平凡な主婦がちょっとしたきっかけから、ある日スパイ活動を始める。「カメハヤ」はこの設定をぽかーんと楽しむ映画である。

片倉スズメを演じる上野樹里は、この脱力感満点の主婦(そもそも主婦らしいシーンはないのだが)そのものである。そう見える。上野自身が演じた「スウィングガールズ」の鈴木友子が、そのまま主婦になったのかと思わされるほど、両者の間には連続するものが感じられた。計算してのことかどうかはわからないが、この緩さは上野樹里という俳優あってのものであろう。一方、スズメの幼なじみであるクジャク(蒼井優)は平凡からは遠い存在の女である。従来はクジャクのような「ドラマに溢れた非凡な人物」が主役として描かれたはずである。それがここでは平凡なスズメを相対化する人物として、やや戯画的なまでにデフォルメされた人物として登場する。まわりが激烈であるほど、中心の平凡さが際立つ。そこがおもしろい。

二人の若い俳優を取り巻くベテラン勢もそれぞれに持ち味を発揮して、この平凡な世界を愉快に盛り上げてくれる。物語は絵空事に近いけれど、暑い夏にはほどよい緩さであった。テアトル梅田で鑑賞。

「亀は意外と速く泳ぐ」公式サイト

|

« 星になった少年 | トップページ | 角田光代『あしたはうんと遠くへいこう』 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/11234/5294832

この記事へのトラックバック一覧です: 亀は意外と速く泳ぐ:

» 亀は意外と速く泳ぐ [うぞきあ の場]
これまでに全くなかった“脱力系”エンターテイメントの誕生! キャッチフレーズのごとく、ユルいギャグが延々と続く。 まるで、“マカロニほうれん荘”をはじめて見たような衝撃だった。 見所 ・ 主婦らしくない上野樹里。   しかし、台詞の使いまわし・共演者との掛け合いは最高!   一時的なおばさんパーマは妙にハマってて、   まるで地でいっているかのような平凡さ。   しかもスパイに�... [続きを読む]

受信: 2005.08.07 00:00

» 小ネタは面白いのに、全体は「そこそこ」◆『亀は意外と速く泳ぐ』 [桂木ユミの「日々の記録とコラムみたいなもの」]
8月11日(木)名演小劇場にて 前回、ベストセラー小説『イン・ザ・プール』の映画化で、"ゆる〜い笑い"を提供してくれた三木聡が、今度は自らのオリジナルの脚本で監督を行った。  『イン・ザ・プール』のレビューの時にも書いたが、この三木聡という人物は、『ダウ....... [続きを読む]

受信: 2005.08.15 11:38

» 亀は意外と速く泳ぐ [ダディャーナザン!ナズェミデルンディス!!]
「こうして私はスパイになった。 とにかく連絡があるまで、なるべく平凡に暮らすこと」 クジャク>「好きな数字は?」 スズメ>「6」 クジャク>「好きな寿司ネタは?」 スズメ>「ハマチ」 クジャク>「そこそこだな〜」 脱力系スーパームビー?「奥様はスパイ... [続きを読む]

受信: 2005.09.03 11:39

« 星になった少年 | トップページ | 角田光代『あしたはうんと遠くへいこう』 »