タイトルは重いが、内容は軽い。
映画「がんばっていきまっしょい」(磯村一路監督、田中麗奈主演)のDVDコレクターズエディションが発売された。本編公開から7年後のことである。99年には本編とメイキング、主題歌プロモーションビデオなどの特典が収められたものが発売になっており、その一枚にどれだけお世話になったことか(別に変な使い方はしていません、謎)。今度の新版は本編をHDハイエンドマスターから作り直し、さらに音声も5.1chサラウンドになっている。特典ディスクには当時の出演者3名(清水真実・千崎若菜・久積絵夢)による愛媛ロケ地巡りや磯村監督、田中麗奈らのインタビューも収める。旧版とダブるものがないところに制作者のこの作品への深い愛情を感じた。決して多くの数が捌けるとは思えないものに、わざわざ手間暇とお金をかけているのだから。
もちろん今になって大ヒットしたわけでもない映画のDVDが作り直されて出るというのは、先日終了したばかりの同名テレビドラマのおかげだというほかないが、かつてここで述べたように両者は名前だけが同じの似て非なる作品である。もとよりテレビ版は敷村良子の原作小説からも大きく逸脱した内容になっていて、友情・根性・愛情・恋愛などというわかりやすい要素を盛り込んだ典型的なテレビドラマであった。公式サイトやネットなどの評判を見ると感動や絶賛の声が渦巻いているようで、それはそれで喜ばしいことであるが、私などは「これで映画版が評価されるきっかけになるといいな」と他のことを考える始末で、なんだかそんな人たちに申し訳ない気がしないでもない。
あんな明るくて前向きかつ責任感があって大局的見地に立つ篠村悦子は悦子ではないと「がんばっていきまっしょい」原理主義者(=私)は違和感を感じた(違和感であって否定的に見ているわけではないことを念のために申し添える)。不機嫌で身勝手な思春期を生きる悦子。まわりに対してなんとなくおもしろくない気持を感じ、とげとげしく生きる悦子。自分のことだけで精一杯の悦子。そういったむしろネガティブに映りかねない「青臭いわがまま」「はじけない気分」を映画版は描こうとしていた。田中麗奈の不機嫌な眉と目はその具現化された象徴として重い存在感を見せていた。また他のメンバーも「私たちのキャプテン」などというわかりやすい持ち上げ方はせず、彼女たちなりの考えを持ちながら、思い思いに悦ネエとともにオールを握るのであった。
この映画にはパンフレットはない。それくらい公開時に観客動員が見込めなかったということであろう。その代わりに『伊予東高校女子ボート部漕艇日誌』(ワニブックス)というムック本が出版された。そこに寄せられた制作の周防正行のことばを引いておこう。
この映画には、観客をあからさまに引っかけてどこかへ運び去ってしまうような強力なフックはどこにもない。例えば『シコふんじゃった。』に見られるような弱いものが必死にがんばって強い者に勝つという古典的スポーツものの仕掛けはない。その代わり、アメリカ娯楽映画に慣らされてしまった人たちには気がつきようもない小さなフックがいたるところにあるのだ。小さなフックに引っかけられながら映画の流れに身をまかせていると、様々な思いが内からわき上がってくる、そういう映画なのである。
そういう映画なのである。
■6年前の青臭いもの
1 がんばっていきまっしょい
2 田中麗奈はアイドルか
3 静謐
4 振り返る悦ネエ
5 悦子の背中
6 ラスタホールで鑑賞
7 佐佐木勝彦『花鳥風月紆余曲折』第1巻
8 敷村良子『がんばっていきまっしょい』
「がんばっていきまっしょい」の本質は原作小説すら超えて映画版にこそあると考える者には、今回のコレクターズエディションは最良の一枚となった。消息がつかめなくなっていた三人(清水真実・千崎若菜・久積絵夢))の姿を見られたことが何よりか。「オールメン、ファイト!」と静かにつぶやいてみる。
最近のコメント