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2005.10.07

村上春樹『東京奇譚集』

平凡な生き方をしているせいだろうか、これまで奇譚と呼べるような体験をしたことがない。それが幸せなのか、そうではないのか。微妙(若者言葉)。いずれにしても、それを体験することで何か人生に決定的な変化や違いが必ずしも起こるわけではないことだけは確かであろう。

村上春樹の新作『東京奇譚集』は五編の小説を収めた短編集である。書き下ろしの一編を除き、いずれも「新潮」に掲載されたものである(2005年3月号〜6月号)。タイトル通り「不思議な、あやしい、ありそうにない話。しかしどこか、あなたの近くで起こっているかもしれない物語」(帯宣伝文句)を描く。奇譚といっても驚天動地の出来事が起こるということはない。どの事件も実にささやかなもので、その渦中にいるときはそれなりの騒動に巻き込まれたり、動揺したりするものの、過ぎ去ってしまえば、もはやそれがあったという痕跡しか残っていないほどのものである。そんな出来事を語る。

五編のうち最初の「偶然の旅人」が方法論的にも内容的にも最もよくできていると思った。語り手として設定された「村上春樹」が登場し、その村上が聞いた奇譚を語るというスタイル。展開にも無理がなく、不思議な出来事にきちんとしたリアリティの意匠が施されている。これが二編目以降になると、少々強引かと思えるような話の運びとなり、奇譚ゆえに作り物臭さが感じられてしまう。この作り物臭さというのは初期長編に見られた独特の虚構の世界とは異なる質のものである。初期の小説群は独特の臭みを臭みとして押し切る力(読ませる力)があったと思うのだが、『東京奇譚集』にはその力はないように感じた。

出来のよい短編集を読みたいのならば、春に刊行された『象の消滅』(新潮社)をお勧めしたい。最新作は村上春樹の作品を追いかけてきた人に。(新潮社、2005年9月)

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コメント

>鉄人ママさん
小説という優れて自由な解釈の許されるものは、やはりご自身でお読みになっていろいろとお考えになるのがよろしいかと思います。その作業こそが最大の喜びでありましょう。たまたま私には『東京奇譚集』は物足りなく感じられただけかもしれないですから。

扇町公園、今は小綺麗すぎて普通の公園になってしまいました。

投稿: morio | 2005.10.22 00:42

次はなんにしようかなと思っていたんですが、
そうですか。「東京奇譚集」外れっぽいですね
『象の消滅』か「家守綺譚」にします。

「さくら」扇町公園で正解です。北の方だけ弱いんで、自分のブログ記事は訂正しました。
ありがとうございました。

投稿: 鉄人ママ | 2005.10.19 18:36

>4
最初のはいいのにだんだんトーンダウンし、最後の猿の話で「なんじゃ、こりゃ」となってしまいました。どうせなら猿じゃなくて羊男を復活させてくれると愉しかったのに(勝手な希望)。

「象の消滅」はおいしいとこどりしてるので、昔の短編集をお持ちでないならお勧めです。梨木香步は読んだことがないので、一度本屋で見てみます。

農家のカフェ、いいなぁ。

投稿: morio | 2005.10.08 02:28

「象の消滅」を買う事にします。

私も読後はアレレ?と思いました。1作目が良かっただけに。
同じ「キタン」であれば梨木香歩の「家守綺譚」のほうが面白く読めました。(しかも富良野方面の農家を改装した居心地の良いカフェーで、含み笑いのうちに読み切ってしまいました)

投稿: mi4ko | 2005.10.07 23:05

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村上春樹さんの新作、『東京奇譚集』(新潮社/2005)を読んだ。 温めたフライパンの上をバターが滑っていくように、あんまりすらすら読めるのが問題といえば問題かもしれないなあ。一篇、一篇、ちびちび読まないと、すぐ読み終えちゃうのでもったいない。 (今日はこれ一冊しか持って行かなかったから、通勤の往復で... [続きを読む]

受信: 2005.10.08 15:30

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