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2005.11.12

町田康『東京飄然』

旅に出たくなった。なぜか。理由などない。風に誘われ花に誘われ、一壺を携えて飄然と歩いてみたくなったのだ。

こう語る町田康であるが、彼の旅は日帰り限定である。なぜか。「旅をするためには仕事をして銭を稼がなければならない」という、つまりは堂々巡りするしかない究極の命題ゆえに、遠出はできないのだという。そこでひらめいたのが無目的な日帰りの旅というわけである。なんとも。

町田の赴く先は、早稲田、鎌倉、江ノ島、梅田、新橋、銀座、上野、高円寺、エトセトラエトセトラ。ところが、一般的な観光案内街案内にはもちろんならない。町田の拘泥するのは土地独特の臭みであり、澱や淀みであり、ディテールである。読者は「ダメなやつがダメな街に足もとをすくわれ続ける様」を思う存分笑うことができるが、読み進むにつれ、これほど街と己の関係に深く思いをいたしていることはあるのだろうかと考え始めることになる。もちろん文章はいつもの町田節が全開である。ちっとも深刻にはならない。そのアンバランスの妙を楽しむことができた。けだし達意の文章といえよう。串カツ求めて三千里、俗物根性丸出しの土産物、電車で足を広げて坐る大馬鹿者、ライブハウスとロック魂……。町田にかかってはすべての世事が真実のありかとなるのであった。

それにしてもこれほど「飄然」の似合う男は世間広しといえどもなかなかいるものではない。心底そう思う。なお同じ町田の『耳そぎ饅頭』(講談社文庫)もとうに読み終わっていたが(春のことだ……)、すっかり感想を記すのをさぼっていた。偏屈になりたくないと強く思っていたのに、気がついたら偏屈の谷底に沈んでいたという哀しさとやるせなさ。いいなぁ、この軽み。

(中央公論新社、2005年10月)

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