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2005.11.20

杉本博司 時間の終わり

杉本博司上下が白と黒に色分けられた写真。どこかの海を写したものだと知り、以来その作家がとても気になっていた。杉本博司が代表作を収めた評論集『苔のむすまで』(新潮社)を刊行したのは今年の夏のことである。深い思索の跡がうかがえる文章は、杉本の写真と疑いなく同質のものであり、読む者は彼の文章の背後にある「何か」に思いをいたすことになる。

形而下から形而上へ。視覚が絶対的な権力を有する写真でありながら、見えているものはむしろ問題ではない。無限遠の向こうにある建築物や鈍い光を放つ映画館のスクリーン、そして白と黒の間で揺らめく水平線。ここでは写真から立ち上がってくる気配や感情、思想、伝統、歴史などこそが重要である。人類の叡智といってもよい。むろん他の写真家にもその種の思索を強いるものはあるだろう。しかし、杉本はそれなくしては作品自体が意味をなさない。それくらい徹底している。見る者に考えること、感じることを強要する杉本の写真は、楽な気持ちで鑑賞できるような甘い顔を決して見せない。

それは杉本が展覧会において、会場全体を作品とする姿勢にも通じる。会場は単なる展示場ではなく、これもまた杉本の作品そのものなのである。森美術館で開催中の展覧会「杉本博司 時間の終わり」の非常なる緊張感に満ちた空間は、ミニマルアートやコンセプチュアルアートの最も良質な部分を存分に味わわせてくれる。極めて刺激的であった。

補記:私が訪れた日はロシアのプーチン大統領が六本木ヒルズにやってくるということで、ものものしい警備体制が敷かれていた。これも「杉本的」に考えるならば……。備忘録代わりに記しておくことにする。

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» 杉本博司「時間の終わり」@六本木ヒルズ [ayanolog]
六本木ヒルズの森美術館でやっている、杉本博司「時間の終わり」の話です。六本木ヒルズmeetupのときに見たものだから、だいぶ時間経っちゃってますけど。 展覧会各種(私の場合は写真展が中心ですが)、私は大抵、一切予習しないで観に行きます。 別に高尚な理由があるわけじゃなくて、単に事前にリサーチするのがめんどくさいだけなんだけど(苦笑)、でも、予備知識なしだから楽しめる楽しみ方っていうのもあるんじゃないかなーとなんとなく思っています。 で、杉本博司。 感想は人それぞれだと思うし、好き嫌いも分かれると思う... [続きを読む]

受信: 2005.12.09 04:17

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