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2005.11.26

日常の旅

柴崎友香 奥田英朗 角田佐内
大阪と東京の二つの「日常」を行き来する距離感は、日々の生活に濃密な「旅情」を感じさせる。そうした根無し草感覚から得難い何ものかを引き出すことができるのかどうか、まだ定かではない。でもいまのところ、そんなに悪いものでもないと思っている(思い込もうとしているだけだったら嫌なのだが)。

柴崎友香『青空感傷ツアー』(河出文庫)は、映画化された『きょうのできごと』(同)に続く第2作である。失恋直後の女と退職直後の女が二人であてどもなく旅をするというものである。東京→大阪→トルコ→徳島→石垣島と巡りながら、しかし、この小説は観光案内のごとき内容にはならない。描かれているのは非日常の中の日常である。トルコにいても石垣島にいても、彼女たちの精神は大阪での生活、大阪でのありようから離れることはない。それぞれの地は大阪と相克し、二人の日常を相対化していく。それを手垢にまみれた「自分探し」などという括りで記すことはすまい。柴崎独特の極めて映像的な文章はここでも健在である。まだそれほど知名度があるとは言えないこの作家を、1作目2作目の解説を担当した二人の芥川賞作家(保坂和志・長嶋有)が手放しで褒めている。同郷同窓としては何となく嬉しい(笑)。

直木賞受賞後に発表された奥田英朗『サウスバウンド』(角川書店)もまた日常の中の旅を描く。伝説の元過激派を父に持つ少年は、父親の無軌道な生き方に振り回されつつも、どこかでその群れることを嫌う精神に惹かれてもいる。父が東京で問題を起こし、そこにいられなくなった一家は沖縄、波照間、石垣へと居を移していく。父にとって自らの信じる「楽園」を求める人生は、まさに旅そのものであろうし、彼とともに運命をともにする少年や家族達の日常生活もまた、旅の精神に満ちあふれたものとなるだろう。奥田一流のユーモアに富んだ文章が、ともすれば深刻な筆致になりがちな社会問題をも軽やかに笑い飛ばしている。少年の冒険文学としておもしろく読み切った。

角田光代・佐内正史『だれかのことを強く思ってみたかった』(集英社文庫)は、直木賞作家と木村伊兵衛写真賞作家によるコラボレーション。佐内の撮影した東京のスナップ写真と角田の東京を舞台にしたショートストーリーが交互に登場する。これもまた日常の旅である。ただ看板はものすごいけれど、この本自体の出来は今ひとつだと思った。とりわけ角田の短編がひどい。作り物臭さばかりが鼻につき、物語に入り込むことができない。これならば写真に合わせたエッセイとか東京散歩紀行にでもした方が、はるかによかったのではないか。せっかく二人で東京を「ほっつき歩いた」(角田談)のに。虚構が虚構以外に見えない時ほど哀しいものはない。

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