« 文字の美 | トップページ | バットマン・ビギンズ »

2005.12.02

芸術鑑賞は体力勝負

芸術の秋上野動物園にほど近い地下鉄千代田線根津駅から歩くことにした。東京芸術大学の重厚な建物を横目に見ながら、深い黄色に染まった立派な銀杏の木に目を奪われる。しばらくすると人波が現れる。まもなく閉幕する「北斎展」(東京国立博物館)を目指す人々である。

平日でありながら、入場するのに30分も並ぶことになった。中に入ってからも、小さな絵の前に人人人……。しかも展示総数が200を超えるというから、すべての作品の前に出るまでじっと待っていると、いつまでかかるかわからないほどの混雑ぶりである。おそるべし北斎人気。ここは見たい絵だけゆっくり鑑賞するのだと割り切る。重厚精緻な肉筆画もよいが、やはり驚嘆の技術で作成された摺物の数々がすばらしかった。超絶的オーラは実物によってしか感得することはできないのだと、あらためて思う。買い求めた400頁の図録はPowerBookより重い。あわせて以前からほしかった『北斎漫画』(小学館)の初摺原寸色刷り復刻も手に入れた。北斎による「絵のお手本集」、どこを開いても楽しい書である(ついでに、意匠という観点からまとめられた『光琳デザイン』(淡交社)も、尾形光琳をはじめとする琳派の単なるカタログに終わっていないよい書であった)。

続いて東京国立博物館の向かいにある東京都美術館に向かう。こちらでは「プーシキン美術館展」が開催中である。モネ、ルノワール、ゴーギャン、ゴッホ、セザンヌ、マティス、ピカソら、日本で人気の高い西欧近代絵画の収集で名高い「シチューキン・モロゾフ・コレクション」の作品群を観ることができる。これまたたいへんな混雑ぶりであったが、「北斎展」があまりにもすさまじかったので、相対的に空いているように錯覚させられた。これだけ見られたらいいと思っていたマティスの「金魚」。思っていたより大きな画面に踊る、輝くような色彩に酔った。ピカソの「アルルカンと女友達」にも息を飲んだ。

上野から日比谷線に乗り都立大学前駅を目指す。昨年度通っていた写真表現大学でお世話になった、木村幸子さんの初の個展がかの地のギャラリーで開かれているのである。浅い色合いの正方形の静かな写真が17点。ご本人と同じ穏やかな空気が満ちあふれていた。久しぶりの再会に時間を忘れて話し込み、さらに東京へ仕事で来ていたEarly Galleryの有田泰子さんとも旧交を温めることができた。

補足:Carl Zeissの単眼鏡がほしいと今日ほど思ったことはなかった。東京で美術鑑賞するには必須だと思う。千住博・野地秩嘉『ニューヨーク美術案内』(光文社新書)は、美術館巡り、絵画鑑賞のよき手引き書である。ただし取るべきは千住の担当箇所のみ。ゴッホの絵具・モネの眼・ルノワールの甘さ・注目すべきは耳・現代アートの楽しみ方など、芸術を読み解く楽しさを教えてくれる。「絵の前では何を考えてもいい」という千住のことばは至言であろう。後半の野地の担当箇所は凡庸で蛇足。

|

« 文字の美 | トップページ | バットマン・ビギンズ »

コメント

>自由なランナーさん
コメントありがとうございます。東京の人の多さに驚きながら鑑賞しました。どんな時間帯でもあの混み具合なら、気合いを入れていくしかないですね。千住さんのようなゆったりとした心持ちで鑑賞できないのが残念です。

投稿: morio | 2005.12.11 04:50

はじめまして。
北斎、プーシキン、良かったですね。もう少しすいていたらな、と思います。
「ニューヨーク美術案内」、読みました。私は野地さんのパートも楽しませてもらいました。
うちのブログでも書いたので、TBさせてください。

投稿: 自由なランナー | 2005.12.09 15:41

>poyasoさん
私はあのあたりへ初めて行ったのですが、なんだか道がよくわからなくて迷いました。:-P 木村さんはずっとあのような写真を撮っていらっしゃいます。最近ハッセルを手に入れられたとかで、今後ますます旺盛な活動をされるようですよ。

投稿: morio | 2005.12.06 02:05

こんにちは。
土曜日に、木村幸子さんの個展、行ってきました。
世界感が出来上がっていてうらやましく思いました。

投稿: poyaso | 2005.12.05 18:47

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/11234/7422162

この記事へのトラックバック一覧です: 芸術鑑賞は体力勝負:

» すてきな美術指南書:ニューヨーク美術案内 [単身赴任 杜の都STYLE]
いつもお邪魔している、すばらしいTakさんのアートブログ「弐代目・青い日記帳」で [続きを読む]

受信: 2005.12.09 15:37

« 文字の美 | トップページ | バットマン・ビギンズ »