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2005.12.09

読み解く写真

米田知子一枚の写真に何を見るのか。米田知子の写真は一見何の変哲もないようなスナップに見える。たとえば右の青い写真。人気(ひとけ)のないプールで若い恋人が穏やかに抱き合っている。世界中のいたるところで繰り広げられているであろう恋愛模様が、印象的なタイルの壁や青い水面によって美しく彩られている。しかし、この写真につけられたキャプションを読むと、その幸せな風景はたちまち違った相貌を見せ始める。

ハンガリーの工業化が進むさなかの1950年に建設が始まったドゥナウーイヴァーロシュは、1951年から61年までの間、スターリンヴァーロシュ(スターリン・シティ)と呼ばれていた。ここはハンガリーの社会主義政策の模範都市として、海外からの来賓によく紹介され、ユーリ・ガガーリンもここを訪れた。ドゥナウーイヴァーロシュは社会主義リアリズム建築の典型的な実例がたくさんある。

社会主義国家の国威発揚のために使われたプールで静かに寄り添う恋人。それは単なる点景ではなく、背後にある歴史や社会、哲学といったものを強く意識させる。彼女の一連の作品群はそういう失われつつある過去の記憶、負の遺産を現代の風景の中に透かしてみせる。写真として愉しみ、読み解いて思いを馳せる。『In-between ハンガリー・エストニア』(EUジャパンフェスト)でも、ベルリンの壁崩壊の引き金となった場所や対ソ連レジスタンスの隠れ家など、歴史的な場所の今を絡め取っている。凄みを感じさせる一冊である。

Lee Friedlander『Self Portrait』(MoMA)は1970年に刊行された写真集である。すべての写真にフリードランダー自身の姿や影が写し込まれている。彼の手法の歴史的意義(写真史における)はすでに論じつくされているようであり、ことさら述べ立てることはしないが、自己と場面は対立するものではなく、見る私は常に見られる私でもあるという両義性を意識させるそれは、優れて刺激的な営為であるといえよう。

アフリカの自然を空撮によって捉えたRobert B. Haas『驚異の大地アフリカ』(ナショナルジオグラフィック)は、「Through the Eyes of the Gods」という原題を持つ。まさに「神の視点」。魔術的なまでの大地のうねりや神秘的としかいいようのない動植物の営みが、見るはずのない位置から次々と切り取られている。写真の質は必ずしも優れているとはいいがたいものの、これだけの大きな版の写真集がわずか2800円というのも驚きである。

綺麗なもの、志の高いもの、思慮深いもの、そういうものに触れるのは実に幸せなことである。

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