キング・コング(1933)
戦前の映画でも最近はDVDになっていて、簡単に手に入れることができる。しかも極めて廉価なシリーズとして発売されており、好きなものにはありがたいことである。何年か前に「最後の大物」というふれ込みでDVD化されたオードリー・ヘップバーンの「ローマの休日」ですら、今や1000円ほどで買えるようになっている。どうやら著作権・版権切れのものは正規ルート以外からも販売できるとおぼしい(日本語コーパスとして貴重な存在である「青空文庫」が、死後50年経った作家の作品をどんどん電子化して無料公開していることが思い起こされる。閑話休題)。
現在ロードショー公開中の「キング・コング」は、1933年に製作された古典的怪獣映画「キング・コング」のリメイクである。「ロード・オブ・ザ・リング」のピーター・ジャクソンが監督を務める。特撮もドラマ部分も評判がよいようで、オリジナルに忠実かつ心憎いほどのオマージュを捧げるこの作品は、キワモノ的存在でありながらそれなりのヒットを飛ばしているらしい。もっとも「ロード・オブ・ザ・リング」すら見ていない私には、188分の長尺はちょっと耐えられそうにないけれど。
そのオリジナル版を500円で買ってきて見た。南洋の孤島で捕獲され、ニューヨークで見せ物にされるコング。逃走の果てのエンパイヤステートビル頂上での壮絶な飛行機との戦いと転落死という哀話は、誰もがよく知るところであろう。人間のエゴや文明批判を透かし見せるこの映画は、基本的に1933年というコンテクストの中に置いてこそ最大の輝きを放つものである。しかし、エンパイヤをアメリカの象徴と捉え、コングをイラクや北朝鮮、テロ組織と読み替えることで、この映画の批評精神だけは70年の時を超え今なお色褪せていないことを知る。特撮の稚拙さや現代では許されそうもない差別的表現その他もありはするが、映画そのものの存在価値に比すれば些少なことである。
なお余談ながら、新参者ゴジラが先駆者キングコングの胸を借りる形で制作された「キングコング対ゴジラ」(1962年)は、同シリーズでも高い人気を誇っている。私もコングはこの映画で知り(後年の東宝チャンピオン祭りにて)、それ以外では見たことがなかった。けだし怪獣プロレスの醍醐味を味わわせてくれる傑作であろう。それもこれもオリジナル版「キングコング」の威光の賜物である。
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