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2006.01.16

子どもの情景

日本の子ども 子どもの時間 loretta lux

街中でスナップ写真を撮ることについての是非はともかく、少なくとも撮影者と無関係の子どもを誰彼なく被写体にするのは極めて難しい世相になっている。下手にそういう写真ばかりを撮っていると、何かの弾みでお縄になる可能性すらある……。なんとも住みにくい世になったと嘆息しながらも、自分の子どもに見知らぬ誰かが熱心にカメラを向けていたら、やはり警戒するだろうなと思い直す。いやはや。

子どもを写した写真は、彼らの存在そのものの魅力もさることながら、その背後に子どもらの生活や家族までもが透けて見えるようで、とりわけ感情移入の度合いが強いものである。個性的であればあるほど、不思議なことに普遍的な感情に訴えかける何かが炙り出されるように思われる。年賀状に刷られた子どもの写真にはさまざまな事情で批判が多いと聞くが、それとて見方を変えると興味深い「人生」を内包する「作品」となる。近頃手に入れた子供たちの写真集をいくつか。

■日本写真家協会編『日本の子ども60年』(新潮社)
1945年からの戦後60年間に撮影された、日本全国の子どもの写真を集めた写真集である。撮影したのは木村伊兵衛、土門拳といった大家から、市井の愛好家まで幅広い。すぐれて記録的な写真はすぐれて芸術的な作品としても自立している。表紙の写真からすでに「やられた」感がある。同内容の「日本の子ども60年 写真展」が全国で開催中である。東京展は終了したが、名古屋、京都、横浜で引き続き展覧される。

■橋口譲二『子供たちの時間』(小学館)
『十七歳の地図』(角川書店)と並ぶ名作であろう。ドキュメンタリー写真を得意とする橋口譲二の最良の資質が発揮された一冊だと思う。この写真集には日本全国の小学六年生一〇五人のポートレイトとともに、彼らのアンケート回答と作文が収められる。写真をじっと見た後、添えられた文章を読むと、あらためて一人一人には固有の人生があるという当たり前のことに気付かされる。見ているとたまらない気持ちになった。

■ロレッタ・ラックス『LORETTA LUX』(青幻舎)
旧東ドイツ出身のロレッタ・ラックスは、スタジオ撮影した子どものポートレイトを風景画や風景写真とデジタル合成する手法で、とにかく「美しい」作品を作り上げる。しかし、ここでの子どもは、無邪気だとか、無垢だとか、そういったステレオタイプとしてのありようから離れ、我々の内側をざわつかせる存在として画面に現れている。「子どもらしさ」を徹底的に排除する肖像写真に込められたものは、相当深く複雑であるように思われる。

■蒼井優『トラベル・サンド』(Rockin'on)
おまけ。十代最後の夏をアメリカで過ごした蒼井優。彼女とカメラマン(高橋ヨーコ)とコーディネーターの女性三人の旅にまつわるエッセイと写真をまとめた一書。ありていに言ってファンのための本だが、「人をどう写すか」という視点を得ることもできると主張しておこう。無理矢理だけど。

エントリー名を「子どもの情景」としたのは、シューマンを思い出したから。安易か。この中でよく知られている「トロイメライ」ももう何年も聴いていないなぁ。

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