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2006.01.03

理由

理由宮部みゆきの原作をそのまま映像に載せたらこうなるだろうというものだった。

※推理ミステリーゆえ、原作を未読または映画を観ていない方は以下の記述にご注意を。

同名の小説は2002年の夏に読んだ。高層マンションで起きた不可解な殺人事件をめぐる物語である。ユニークなのは事件関係者へのワイドショー的インタビューを積み上げることで一つの長大な物語をなしていることだろう。もっとも読み進めている時はその世界にはまりこんでいたものの、読後にそれほどの充実感はなかった。あれだけ長く物語を引っ張った割には、真犯人の描き方や犯行の動機などが若干弱いように感じたからであった。また事件解決後に関係者にインタビューをするというこの作品のスタイルそのものが、逆に犯人が誰かを教えることになってしまっていることも結果的に興をそぐことになった。なぜならインタビューに直接出てこられない人物が事件と関係しているのが隠し絵のように浮き上がってしまうからである。

さて大林宣彦監督の映画は2時間40分の長尺である。ここでも小説同様おびただしい証言が繰り広げられる。劇中人物の視点はまっすぐカメラに向かっており、あたかもインタビュアを目の前にして語っているかのようである。いや、実際そういう設定なのだろう。あまりにも多くの人物が登場するため、いちいち字幕が入る。彼らの立場と証言をきちんと追いかけないと、まったく物語についていけなくなる点は、この映画の評価を分けるところかもしれない。第三者的な視点(神の視点)から事件をドラマ化するのではない珍しい手法がそこにはある。朝日文庫版の解説を担当する重松清が指摘した通り、複数の人物が一つの事件をそれぞれの立場から語る様子は、芥川龍之介の「藪の中」を思い起こさせる。まさに人の数だけ「理由」があるのだ。

小説でも焦点となっている「家族」が、映画ではより大きくクローズアップされている。家族をめぐる悲喜交々の情景。三世代の大家族の中で育つ少女が事件と関わりを持って流す涙は、見るものにそれぞれの家族のことを思い起こさせるに違いない。

大林監督縁の俳優が総出演している。意外なところに意外な人が登場する。そんな楽しみもある。それにしてもエンディング曲の歌詞がいつまでも耳に残って怖いよ……。

映画「理由」公式サイト http://www.wowow.co.jp/stock/riyuu/

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コメント

>Muさん
もともと大林監督の映画が好きなので、この映画も楽しんで観ました。となると、Muさんにはダメか(笑)。一般的な映画の造り方ではないので、よかったら冬休み中にぜひ。

投稿: morio | 2006.01.04 01:10

 私も以前、原作を読みました。
 模倣犯ほどながくなくて、手頃だとおもいました。

 この記事読んで、映画も観たくなりました。なんとなく、映画評はmorioさんの評価といつも逆なので(笑)

投稿: Mu | 2006.01.03 15:56

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