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2006.02.21

大きな文学賞を取った小説

いい悪いは別にして、芥川賞と直木賞を取った小説は、社会勉強のためにできるだけ読んでおこうと思っている。その時々の文壇や出版界の事情というのが透けて見えそうだから。実際には見えそうで見えてない、というか、偏って見ているはずなんですけど。

石田衣良『4TEEN』(新潮文庫、2005年1月)4teen
東京の東側にある下町は、昔ながらの江戸っ子の住む街という、正しいのか正しくないのか、よくわからない固定観念でもって認識している。この小説はそうした下町のひとつ月島を舞台にしている。あとがきで石田本人が「池袋的なものはやめようと最初に決めた」と語っているにも関わらず、『4TEEN』はひどく『池袋ウエストゲートパーク』に似ていると思った。もちろん平凡な中学生を描く本作からは『池袋〜』でテーマとなっていた暴力や犯罪が絡むサスペンス的な部分を注意深く取り除いている。それでも「特定の街を設定」し、「そこに住む地元少年が活躍」し、「ハートウォーミングな結末」が据えられるという小説の枠組みを見るにつけ、この二つの作品に流れる水脈は同じだと思われるのである。できのいい箱庭小説、それが石田の持ち味(限界?)なのであろう。2003年7月、第129回直木賞受賞。

■大道珠貴『しょっぱいドライブ』(文春文庫、2006年1月)shoppai
芥川賞に選定された当時、「なんでこれが!?」と各種メディアで大いに批判された作品。芥川賞にしろ、直木賞にしろ、批判的な意見は必ずあるのだが、この作品はとりわけその声が大きかったように記憶している。その評判に負けて文庫本になるまで読んでいなかった。で、読んだら、これがおもしろかった。へなちょこのじいさんと三十路の女性の恋愛模様が妙に気になるのである。「しょっぱいドライブ」とはこの二人のドライブのことで、今時の若者のようなおしゃれなものではもちろんない。二人の性交も「漏れそうです」「ああ」「うう」で終わり。滑稽でシリアスのかけらもないところになんだか人生の哀切を感じる。同時収録の「富士額」「タンポポと流星」もいい。人間が生き生きしている。2003年1月、第128回芥川賞受賞。

村山由佳『星々の舟』(文春文庫、2006年1月)hoshiboshi
久しぶりの村山体験である。『天使の卵 』(集英社、1994年)や『きみのためにできること』(集英社、1996年)を読んだ時に、コーヒーに砂糖を十杯くらい入れたような作風だと思い、それきりになったのだった。それがこの『星々の舟』では印象がずいぶん違う。連作の形を取るこの小説は、複雑な血筋を持つ家族の一人一人が各短編の主人公に据えられる。近親相姦の恋愛に悩む兄妹、誰かのものになっている男ばかりを好きになる末娘、日曜菜園以外に居場所のない団塊世代の長兄、かつてのいじめが今も心に深い傷を残す長兄の娘、そして戦争の傷痕に生き方を決められた父。 文庫本で四百頁を超えるボリュームなるも、一気に読み切った。砂糖は三杯くらいにまで減った。2003年7月、第129回直木賞受賞。上記の石田衣良と同時受賞だった。

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コメント

石田には町そのものにあまり思い入れはないのかもしれません。それとも思いはあってもたんに書けないだけなのかも。いずれにしても作家は書いた作品がすべてだから、具体的な地名を出すなら、その空気感を小説の中に再現してほしいと思ってしまいます。

投稿: morio | 2006.02.24 03:04

石田衣良のは実は読み終わっています。
妙な言い方ですが、月島じゃなくていいじゃ〜んと思いました。
新興の高層マンションと、土着の長屋組、普通の家がある場所なんて
月島以外にもいくらでもありますね〜。
せっかく使うなら、月島ならではの情景や、風土や、文化を入れて欲しかったです。
いや、ホント、池袋と同じですなぁ〜。暴力がないだけ。

投稿: しきはん | 2006.02.23 01:44

>しきはん
もともとは自分自身の勝手気ままな備忘録であるので、それが人様の脳みそをも刺激しているのなら望外の喜びです。石田衣良のも月島が舞台だから、街が明確に像を結ぶ分、しきはんさんの方が私よりずっと楽しめるかもしれません。あくまでも「かもしれません」なんですが。

投稿: morio | 2006.02.22 02:17

砂糖がそれぐらい減ったのなら、私も村山由佳を読んでみようかな。
「しょっぱいドライブ」も読んでみようかと思いました。
morioさん、いつも紹介してくれてありがとう。
忘れてたもの、気がつかなかったものなど、発見できてありがたいです。

投稿: しきはん | 2006.02.21 17:44

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