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2006.02.09

もの申す数学者

藤原正彦年末年始は久しぶりに「やまとなでしこ」(フジテレビ、2000年)を通して見た。究極の玉の輿を夢見るフライトアテンダント(松嶋菜々子)と、数学者になる夢を諦めた魚屋の親父(堤真一)の恋愛を描いたもので、放映当時高い人気を誇っていた「月9」ドラマである。堤の演じる中原欧介は将来を嘱望された元数学者で、ドラマの中でも神様のルールとか法則とか美とか、そういう類の発言を繰り返していた。

かなしいかな、数学から遙か遠い世界に住む私は、この中原欧介の発言を聞いてもピンとこないところが多々あった。ところが、このところ立て続けに読んだ藤原正彦の著作に、既視感を覚えるような記述を数多く見つけ出したのである。あのドラマの発言の一つ一つは、必ずしもすべてがわかりやすく戯画化された数学者のロマンチックな夢想ではなかったのだと知った。

藤原正彦・小川洋子『世にも美しい数学入門』(ちくまプリマー新書、2005年4月)は、「数学は、ただ圧倒的に美しいものです」と語る藤原の自説をひたすら開陳する書である。テーマはどこまでも美である。映画版がヒットしている『博士の愛した数式』の著者、小川洋子は、この小説のための取材を藤原にお願いしたという。そこで藤原は数学の美を「詩を朗読する」かのように、または「音楽を奏でる」かのように語ったらしい。この世界には無知蒙昧な私ではあるが、数学の見せる永遠の真理の深遠さについては大いなる憧れを持つ。本書で解説される数式や定理のなんたるかを理解しなくとも、美という無形のものに最大の価値を見出すところには共感を覚えた。

藤原正彦はまた日本語に関しても一家言を持っていて、いくつもの関連書をものしている。美しく豊かな日本語を育むことがこの国を救う唯一の方策だとする藤原は、この十年間行われてきた「ゆとり教育」をばかげたものだと切って捨て、徹底的な国語教育絶対論を展開する。『祖国とは国語』(新潮文庫、2006年1月)は右傾化した旧思想や悪しき教養主義を感じさせる部分もありはするが、ことばによって人は生かされている以上、彼の言わんとするところには首肯すべき点も多くあると思われる。小学校時代の恩師、安野光雅との対談を収めた『世にも美しい日本語入門』(2006年1月)でも、同種の主張がわかりやすく展開されている。

こう読み進めてくると、藤原の大ベストセラー『国家の品格』(新潮新書、2005年11月)の主張も、連続性(と説得力)をもって理解することができる。実はこれだけ読んだときは「頑迷で鼻持ちならない老耄の書いた胡散臭い本」などと思っていたのだった。折しも文部科学省は次期学習指導要領では「ゆとり教育」から「言葉の力」を重視する方向で全面的に改訂することを発表した。実学重視の風潮に風穴を開けるような「改革」となることを期待したい。

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コメント

>Wind Calmさん
「読了しました」という事実だけを伝えることばに、内容や感想のすべてが集約されているように思いました(笑)。

投稿: morio | 2006.02.16 22:53

『博士の愛した数式』、本日読了しました ^^

投稿: Wind Calm | 2006.02.16 20:54

>Wind Calmさん
「読む前からまったくそうだと思っていましたが」という感想はまったくもって正しいと思います。上記の4冊では、やはり数学を語る『世にも美しい数学入門』が一番おもしろいかと。もし『国家の品格』で嫌にならなければ、手に取ってみてください。で、『博士の愛した数式』は読まないんですか(笑)?

投稿: morio | 2006.02.10 22:18

「頑迷で鼻持ちならない老耄の書いた胡散臭い本」
・・・読む前からまったくそうだと思っていましたが、まもなく読む予定です。
 虚心坦懐に読みます(笑)

投稿: Wind Calm | 2006.02.10 00:34

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