かもめ食堂
フィンランド。
私の中にあるこの国のイメージは、モータースポーツとムーミンがほぼすべてであった。学校の地理の授業でも、北欧諸国のスターはフィヨルドのノルウェーと福祉のスウェーデンであり、フィンランドはレゴブロックを持つデンマークより圧倒的に存在感は薄かった。たまたま私はF1やラリーが好きだったため、フィンランドという国に近しい感情を持っていたが、それとて極めて偏った理解でしかなく(ニッポン=フジヤマ・ゲイシャ・ハラキリ並!)、それ以外は平和でシュールなムーミン的世界があるのだろうというひどい偏見に満ちたものであった。サンタクロースも脳天気感抜群だし。なおフィンランドを代表する作曲家シベリウスは、来年没後50周年を迎える。かの地を思い起こさせるような内省的な曲調を愛する人は多い。
近年、インテリア関連でフィンランドを含む北欧がちょっとしたブームとなっていること「だけ」は知っていた。むろん関心などなかった。ところが、ひょんなことからあれこれと情報を仕入れているうちにすっかり魅せられてしまった。虚栄虚飾を捨て去ったシンプルで柔らかなデザインと素材感は、とても好ましいもののように思えたのである。ヤコブセン・アアルト・ウェグナー・ユール・ヘニングセン・パントンなどの作品、製品をため息をつきながら眺めるようになると、もう末期的症状だと言えるだろう。気がつけばダイニングにセブンチェアやアントチェアが居並び、マリメッコのウニッコが窓にぶらさがり、レ・クリントやポール・ヘニングセンの照明が揺れていたりするのだ(妄想大爆発)。スワン・チェア、どこかに落ちていないかしら。
閑話休題。
「かもめ食堂」は北欧気分を満喫できる、とても気持ちのよい映画である。群ようこの原作も風通しのよいものであるが、映画は小説以上にフィンランドそのものを体感させてくれる。よけいなことは語らず、空気感そのものを映像として定着したような趣である。監督の荻上直子はシチュエーション・コメディーの傑作「やっぱり猫が好き」(フジテレビ系)の脚本を担当しているが、その経験がうまく活かされていると思った。主演の小林聡美、さらに片桐はいりともたいまさこが、会話と立ち居振る舞いで自在に場面を構築していく。それはもう見事としかいいようがない。アキ・カウリスマキ監督「過去のない男」の主演マリック・ペルトラも味わい深い役で登場し喜ばせてくれる。物語がどうのこうのというような映画ではない。ただそこにある時間と空間と人を味わい、くさくさした気分を晴らすのが、この映画の正しい鑑賞法だと信じる。北欧インテリア、ファッションとおいしそうな料理の数々にクラクラすること、間違いなし。あなたは「ガッチャマン」の主題歌をきちんと歌えますか? コピ・ルアック!
109シネマズみなとみらい横浜で鑑賞。
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