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2006.04.27

直木賞以前、直木賞以後

かもめ食堂奥田英朗は、『邪魔』(2001年4月)、『イン・ザ・プール』(2002年5月)、『マドンナ』(2002年10月)の各作品で三度の候補となり、『空中ブランコ』(2004年4月・文藝春秋)で第131回直木賞を受賞した。『町長選挙』(2006年4月、文藝春秋)はその受賞作のあとを受ける、神経科医伊良部一郎を主人公とするシリーズ最新作である。これがなんともつまらない。

四編が収められている。うち三編は実在の人物(渡辺恒雄・堀江貴文・黒木瞳)を強く想起させる人物と伊良部の絡みが描かれる。誰しもがニュースやドラマなどで知っている出来事や事件が、再現フィルムを見せられるかのように展開し、その周囲を伊良部が動き回るという構図である。揶揄にしては生温いし、洒落のめすにしては真面目すぎる。前二作で描いたような、神経科医としてのありよう、出会うであろう症状というものをまず提示して、そこからドタバタ劇を展開するというスタイルが好ましいと思うのだが。そういう意味では四編目の「町長選挙」のみ、前作までのスタイルを正統的に引き継いている。いうまでもなくこれが一番楽しめた。もし伊良部シリーズが未読であれば、文庫化された第一作をお薦めする。あとはお好みのままに。

余談をひとつ。『イン・ザ・プール』と『空中ブランコ』についてはかつて述べた。すでに名をなした売れっ子作家が順番に受賞しているので、「次は東野圭吾か」とこの時に書いたら、本当にその次に受賞した……。やれやれというほかない。

かもめ食堂朱川湊人は第133回の受賞者である。受賞作『花まんま』(2005年4月)の色艶にすっかりまいってしまい、その後すぐに再読したほどである。『都市伝説セピア』(2006年4月、文春文庫)は、朱川のデビュー作であり、『花まんま』にまっすぐ続く世界を描く。すでに後年のスタイルのすべてがここにはある。初期作品集『白い部屋で月の歌を』(角川ホラー文庫、2003年11月)に見られた強いホラー色の残滓が感じられはするものの、全体のトーンは紛れもなく『花まんま』のそれだ。過去のある一点に向かって強く回帰する押しとどめようのない感情が、ノスタルジーや懐古趣味、子どもの頃の思い出といったさまざまな形で現れる。その切なさたるや。また話の構成も巧みで、どれもすんなり終わらない。待ち受けるどんでん返しが悲しくもあり爽快でもある。解説は石田衣良。小説も含め、これまで読んだ石田の文章の中で最もよかった(皮肉か)。

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コメント

>ひぎり焼きさん
忘れてませんよ。私にとって「永遠の青春映画」となった「がんばっていきまっしょい」関係の人、もの、事は強く脳裏に(以下略、笑)。

安価な文庫本ですし、ぜひ騙されたと思って読んでみてください。「そうきたかぁ」というオチがあるところ、娯楽とは何たるかを教えてもらっているようです。

投稿: morio | 2006.05.04 00:54

お久しぶりです。って言っても覚えてらっしゃらないかもしれませんが・・・(-_-;)

ここで紹介されている本「都市伝説セピア」を読んでみようと思います。
決め手になったのは「待ち受けるどんでん返しが悲しくもあり爽快でもある。」と「解説は石田衣良。小説も含め、これまで読んだ石田の文章の中で最もよかった(皮肉か)。」です。(笑)

投稿: ひぎり焼き | 2006.05.02 19:25

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