ゆるゆると疾走する楽しみ
今のところ海外への憧れがないので、行きたいところといえば、もっぱら国内となる。しばらくごぶさたの讃岐うどんポタリングとか、3年ぶりのしまなみ海道走破とか、阿蘇山近辺ぐるりとか、夏の北海道輪行の旅とか、直島でまったりとか、自転車絡みでいますぐにでもでかけたいところがいくつかある。伊豆、箱根や日光にも行きたい。あとは動物園でピンホール写真を撮るために、和歌山のアドベンチャーパーク(パンダ)、愛媛のとべ動物園(ホッキョクグマ)、関東近辺の動物園などにも早々に行ってみたい。そして中でも最高の憧れを持って行きたいと切望するのが屋久島である。その日が来たら、絶対に自転車と針穴カメラを持って行く。
■森絵都『屋久島ジュウソウ』(集英社、2006年2月)
それで節操なく「屋久島本」を手にするわけである。児童文学作家の森絵都の作品はこれまで読んだことがない。椋鳩十賞をはじめ児童文学関連で多くの賞を受賞する、いわばその筋の第一人者であろう。その森が雑誌編集者達と屋久島へでかけ、九州最高峰を「ジュウソウ(縦走)」するのである。予想以上にハードな「アウトドア的二泊三日」の行程は、憧れ先行の者(私だ)には少々厳しいものが……。なにせ「アウトドア大嫌い人間」を自負する私であるから、きついとかひもじいとかのあれやこれやはできるだけ避けたいのである(自分勝手)。柔い考えを打ち砕いてくれたという意味ではありがたい書であった。ただ森の文章は独特の臭みがあって好きになれない。対象に没入しているというより、どこか高みから斜めに物を見ているような感じがする。本書後半の世界各地を巡る旅行記録も同様である。なにか鼻につく。他の著作物を読んでそのあたりを確かめたい気もするが、そこまでするかどうかは定かではない。
■吉田戦車『吉田自転車』(講談社文庫、2006年3月)
それに対してこの吉田戦車の自転車本はよい。なにより自転車とがっぷり四つに組んで、自転車で走る楽しさや気分や痛みをきちんと文章にするところがよい。かといって自転車に対する異常な偏愛はない。それもよい。さらに自転車の名を借りて、「俺の哲学」「俺の道徳」「俺の人生」を語ったりしないところがよい。多いのだ、こういう嫌な自転車本、たとえばヒキタ某(ツーキニストなる気持ち悪いことばを作ったのもこの人だ)……。恥ずかしながら吉田戦車の文章は初めてであったのだが、評価の高い独特のセンスの漫画だけでなく、文章の方もしっかり読ませてくれる。とにかくけれんみがなくて気持ちがよい。そしておもしろい。自転車に関する文章を書くなら、こういうのを書いてみたい。わが職場が出てきたりして、ちょっとドキドキしたのは内緒(笑)。自転車と麺を必ず組み合わせるのも共感度大である。まだまともに走ったことがない東京をぐるぐると走りたくなった。『吉田観覧車』もそそるなぁ。
■吉田修一『日曜日たち』(講談社文庫、2006年3月)
日常の風景の中に兆す異物感をすとんと切り出したような「パーク・ライフ」は、好きな小説の一つであった。といいながら、吉田修一の他の著作に手を出していないところは不勉強の謗りを免れないところか。「日曜日たち」もたまたま文庫化されたのを目にしたので買い込んだのであった。五編からなる短編集である。東京で生きる五人の若者の「ある日曜日」をそれぞれ描く。各短編は独立した物語であるが、ある一点(これは伏せておく)で奇妙な繋がりを見せる。まるで二時間テレビドラマのような展開は読み通すのに苦労はない。しかし、わかりやすさゆえの作り物臭さは人によっては大きな疵になるかもしれない。
新年度が始まったばかりだが、どこかに行きたい思いは募るばかり(^^;。
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コメント
>m4
これはいい本です。気持ちが軽くなります。いまだ雪が残っているところに北海道を感じます。どうぞ邪魔する雪はラッセルしながら突き進んでください。こけないように。
投稿: morio | 2006.04.15 00:50
やっぱり探してきます、吉田自転車本!!
ようやく通勤路の一部(サイクリングロード)のアスファルトが剥き出しになりました。一部雪山障害がありますが、回避しながら進めることも確認できました。あとは吐く息が白くならない日が来るのを待つだけです。
投稿: mi4ko | 2006.04.14 22:07