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2006.05.05

タッチ

タッチ以前紹介した斎藤美奈子の『あほらし屋の鐘が鳴る』(文春文庫、2006年3月)に「熱湯甲子園 女子マネをもてはやす高校球界の奇妙なセンス(注:「熱湯」原文ママ)」という項があり、これがまこと膝を打つ内容であった。1996年から解禁された高校野球全国大会における女子マネジャーのベンチ入りを俎上に載せ、マスコミのはしゃぎぶりと旧態依然の実態を厳しく糾弾するものである。核心部分を引用しよう。

マネジャーに「女子」がつくと、会計や事務など本来の「雑務」のほかに(のかわりに?)、部室の掃除・ユニホームの洗濯・合宿時のメシの世話・傷の手当てなどの「雑用」がくわわるのは、みなさまご承知の通りです。いや、この際あえて申しましょう。女子マネとは、家政婦と看護婦を兼ねた雑役婦、チーム内奴隷にほかなりません。野球、サッカー、ラグビー、アメフト、ボートなど、およそ伝統的な花形の男子スポーツチームには、必ずといっていいほど「女子マネ」という名の女奴隷が随行しています。

無論この斎藤の主張に反論する立場もあるであろう。しかし「どこまでも従順に男に付き従う女」という構図からはのがれられない。斎藤はこうした活動が公教育の場で無自覚のうちになされることの是非を問いかけ、慄然と問題提起しているのである。

はたして浅倉南は「女奴隷」であったのか。長澤まさみを配した「タッチ」(犬童一心監督)を見てそのことを思った。あだち充の原作では野球部のマネジャーをしてはいたが、偶然始めた新体操(1980年代当時は新興種目だった)で全国レベルの実力を発揮し、達也をして「あまり遠くへいくなよ」と思わせたほどの実力を誇っていた。もちろん心はどこまでも「タッちゃんが私を甲子園に連れて行ってくれる」「いつかタッちゃんのお嫁さんに」というのがあったには違いないが、同時に進取の気性に富んだ自立する女性でもあった。ところが、映画版の浅倉南はまったくもって「どこまでも従順に男に付き従う女」でしかない。劇中で南のすることはまさしく斎藤の指摘する女子マネの姿そのものである。そして新体操をすることはいっさいカットされている。申し訳程度に体育の授業でダンスするシーンが挿入されているが、多少は原作に配慮したということか。いや、映画ではそれとても「かわいい女の子=マスコット」を演出する装置でしかない。

「愛しいあの人が私を夢の国に連れて行ってくれる、私はそれをひたすら待ち続ける」それだけのことを描く映画に何の価値があるのだろう。原作は1980年代、映画は新世紀、しかし、その内実たるや、どちらが旧弊なものであるか、火を見るよりも明かである。「強い男と弱い女、守る男と守られる女、俺についてこいとあなたについていきます」、そういう映画である。多少なりとも高揚した気分になったのは、アニメ「タッチ」の主題歌を劇中歌として使ったことくらいか。

タッチ

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コメント

>ぽた郎さん
犬童監督はこれまで痴呆老人、身体障害者、同性愛者などをうまく映画化してきたので、「タッチ」をどう料理するか、楽しみにしていました。それがこれ以上ないほどの紋切り型でがっかりさせられました。

ぽた郎さんの記事、覚えています。取り上げていらっしゃったアニメそのものは知らないのですが、おっしゃることはよくわかります。同じような調子の漫画やアニメは、まだまだ他にもありそうです。社会全体の偏見や固定観念がなかなか改まらないわけだ……。

投稿: morio | 2006.05.10 03:33

映画の「タッチ」はまだ観てませんが(観る気もないですが),morioさんのフンガイはお気持ち察します。つまるところまあそれが大衆集団深層心理を巧妙に掬い取る商業路線の最たるもの・・・と言ってしまえばそれまでですが,あまりにもトホホで芸がなく情けない。

ところで,ネタは違いますが,私も似たようなのを書いてるのを思い出しました。
http://www.potterist.com/potarodiary/diary3/001022.html
偶然とはいえ,斎藤美奈子つながりであるのはお互い妙にナットクしたりして・・・。

投稿: ぽた郎 | 2006.05.09 00:29

>乙女心評論家
念のために申しておきますと、「少年サンデー」連載時の読者ですが、あだち充の漫画には「タッチ」をはじめとしてどれもぐっとくるものがありませんでした。だって顔がみな同じだし(^^;。今思えば、どれも「男のゆがんだメルヘン」を漫画化しているような気がします。そしてこの度の映画はそれをさらに酷くした(以下自粛)。

投稿: morio | 2006.05.05 23:28

何故かタッチ世代の男心をくすぐる「朝倉南」ですが、実は女性からは嫌われる要素がとても多いです。それは男子チームの女子マネージャーという図式とは別に、ふたりのヲトコノコの間で揺れる乙女心の描かれかたに無理があるのです。これに「女奴隷」の図式が付けば、もう、答えはひとつしかありません。
ただ、現代では(2006年の、という 笑)かえって目新しいと感じるのかもしれません。

投稿: mi4ko | 2006.05.05 13:59

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