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2006.06.21

ALWAYS 三丁目の夕日

ALWAYS 三丁目の夕日のっけから皮肉っぽい物言いで恐縮だが、さすが2005年度日本アカデミー賞12冠の映画である。私にはこの映画のどこが感動的なのか、さっぱりわからなかった。あらためて感じたことは、日本アカデミー賞で評価される映画は、私にはまったく合わないということだった。なんなんだろう、この生温い映画は。

これはSFファンタジーである。昭和30年代風、東京らしい街、それらを物語の枠組みとする完全なる箱庭的SF映画である。その発想は完璧にステレオタイプに毒されており、たとえれば火星にはタコのような生物が住んでいると無邪気に信じているようなものである。町並みの昭和らしさはあまりにもあざとくて、ノスタルジックな雰囲気を醸し出そうと演出しているものの、どこまでも作り物臭く、これならば吉本新喜劇の舞台セットの方がよほど昭和っぽい匂いを感じさせるであろう。また脚本そのものもわかりやすく底の浅い人情話をいくつか組み合わせているだけで、これまた「いつかどこかで」見たり聞いたりした既視感を強く覚えるものであった。オリジナリティもリアリティもここにはない(巧みなCGならあるけど)。

そもそも、この映画が声高に叫ぶメッセージが、おおいに疑わしいのである。あの頃はほんとうによかったのか。貧しいけれど夢があったと言い切れるのか。夢といってもせいぜいテレビを買うとか、冷蔵庫を買うとか、そういうものでしかなく、大型液晶テレビがほしい、水を使わない全自動洗濯機がほしいという今の世の中と何が違うのか。結局、この映画の登場人物たちは、戦時中のもののない時代の反動として、ものに溢れた生活に過剰なる憧れ(それが「夢」だとしたらずいぶん即物的な夢である)を持っているに過ぎない。その「物欲」が「夢」に都合よく読み替えられている。やがて来る「一億総中流階級」指向へのきざはしが断片的に切り取られ、効率よくデフォルメされているだけである。「貧しいけれど、夢があった」「ほんとうの豊かさがあった」なんて笑止千万、それこそが「昼行灯の夢物語」である。

父親の病気で借金がかさみ、身売りする女がいる時代。子供が多すぎて生活が立ちゆかず、口減らしのために都会へ半ば強制的に集団就職させる時代。憧れの新商品を手に入れるために連日連夜働き、その陰で昔ながらの商売人が仕事を失っていく時代。映画で描かれるこれらの情景が真実であるかどうかはひとまずおくとして、「ALWAYS 三丁目の夕日」は当時の社会の抱える本質的な問題には何一つ答えようとはしていないし、そもそもその種の問題意識などはじめから持とうとしていないのであった。高度経済成長期の暗部をすべてなきものとし、夢見心地の上澄みだけを見せるやり方は、昨今の無責任なポジティブさを煽り立てる風潮に気味が悪いほど合致するものであろう。なにもかもを「ああ、夕日が綺麗だなぁ」ですませてよいものか。夕日の後には夜の深い闇が待っているのに。

俳優の熱演ぶり(堤真一など怪演だ……)がいっそうのもの哀しさを感じさせる。

公式サイト http://www.always3.jp/

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コメント

西岸良平の漫画の読者ではないので、ご指摘の件、ありがたく拝読いたしました。原作は「PLUTO」目当てで買った雑誌に載っていたのをちらりと見た程度です。その時には、単に懐かしいものをカタログ的に並べるだけで、独自の物語として自立させようという構想力や想像力の感じられないものだと思いました。

おっしゃるようにこの映画がギャグであるなら、また見方は変わってきます。原作または映画が「ファッションとしてのノスタルジー」をギャグ化する批評精神を持っているのであれば、「過去の臭い物に蓋をする醜さ」を暴き立て糾弾する存在として貴重なものだと思います。「夕日が美しいなぁ(=綺麗事)」ですべてをリセット、隠蔽するような人生や社会はありえないのだよと。

でも私にはどうにも「あの頃はよかった」「ほんとうの豊かさがあった」と何も疑わずに主張しているように見えましたし、絶賛する観客や審査員もそのメッセージに思い切り踊らされているように思われたのです。せっかく問題提起的な場面(人買いや失業など)を差し挟みながらちっともそれと正面切って向き合おうとしない、それでいてあたかも時代の暗部にまで目配りしているように見せかける小狡さがなんともいやらしくて。

ああ、ますます噛みついてしまった(^^;。意地悪くいちゃもんをつけるために見たようなところがありますから、必要以上にきつく書いちゃったかもしれません。まぁ「巨人、大鵬、玉子焼き」的存在は苦手だということで(笑)。

投稿: morio | 2006.06.22 23:20

あらあら,やはりとは思ってましたが,morioさんにかかっては,この映画はけちょんけちょんなのですね・・・。(^^;
実は私はこの映画,それなりに評価しております。なんたって,西岸良平の完膚なきまでにデフォルメされまくってるギャグマンガ調の絵に対し,こんなんいったいどないして実写化できるんや~っ!と逆の意味で批判的先入観を持ってましたんで,実際この映画を見たときは,ほほう,なかなかやるな・・・,と関心しちゃいました。
私は映画をあんまし見ない人間なんで映画界としてのバックグラウンドや位置づけはわかりませんが,ビックコミックオリジナルの原作(および他の掲載作品も含む編集方針や想定読者層)の文脈から見ると,なかなかうまい落しどころなのではないかと,その点を評価しております。
morioさん,アレはマンガなのですよ,ギャグなのですよ。古き良き時代をノスタルジックに語る人自体をギャグ化(ネタ化)するメタ・ノスタルジックな視点で見ると,まあアレも楽しめるかと・・・。という解釈はダメですか?(^^;
(とはいえ,アカデミー賞審査員のお歴々が西岸良平の原作をちゃんと読んでの上での評価なのかは,甚だ疑問ではありますが。)

投稿: ぽた郎 | 2006.06.22 00:34

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