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2006.07.16

キャラクター小説のお手本

まほろ駅前多田便利軒三浦しをんの『まほろ駅前多田便利軒』(文藝春秋、2006年3月)を一息に読み切った。bk1amazonで検索すると、いずれも発送まで1〜3週間となっている。どうやら出版社の在庫も払底しているようで、さすが直木賞の威力は半端ではない。今期の直木賞は森絵都とのダブル受賞であったが、森の本はあまり好みでないので読む気もなく、一方、三浦のそれは今住んでいる町田市をモデルにしたものであるということから、にわかに読書魂(そんなもの、あるのか?)を刺激されたのであった。いや、東京の他の場所のことを何も知らないだけなんですけどね。

それで読みながらまず思ったことは、「いずれテレビドラマか映画になるだろう、なっても不思議ではない、なるはずである」ということであった。なにせ主人公の二人のイメージイラストがこれだから(笑)。ジャニーズ事務所あたりが放っておくわけはない。なにより物語の軽やかな疾走感が視覚メディア向きであると思った。

まほろ駅前多田便利軒東京の西のはずれに位置する「まほろ市(幻!?)」の駅前で、いかなる依頼も引き受ける便利屋の二人組が、ペットの世話や小学生の塾の送り迎え、納屋の整理などの仕事を通して、その背後にあるより大きな社会問題と対峙し解決していく。殺人事件や強盗などといった反社会的犯罪と戦うというようなものではないが、物語の構えは現代版「銭形平次」「明智小五郎」「半七捕物帳」といって、まずはよいだろう。「探偵」という職業はさすがに21世紀には非現実的だということか、いかなる存在にもなりえる「便利屋」とはうまい設定だと思わされた。推理ドラマ的展開を持つ短編が六編収められる。彼らの関わった事件の謎解きに加えて、彼ら自身が何者であるのかということも、物語が進むにつれて徐々に解き明かされることになる。作中人物の設定と物語の展開が密につながっており、ごまかすところがない。さらに話の転がし方が上手い。これまでの業績の積み重ねで受賞者を選ぶことの多い直木賞にあって、久しぶりに作品単独で評価されたとおぼしきこの書は、しばし涼やかな気分にさせてくれる佳作であった(ライトノベルのようで重みがないという批判はあると思うけど)。

#小説の価値はともかく、受賞作品が連続して文藝春秋関係のものばかりなのはどうかと思う。あと早稲田出身者に集中。他がへぼいと言われればそれまでか。

虚構小説の創作および読解のための手ほどきとして、詰め将棋のごとき「正統的理屈」を教えてくれる大塚英志『キャラクター小説の作り方』(角川文庫、2006年6月)。この書は、大家(たいか)となった小説家が自らの威厳を世に知らしめるために書きたがる「凡百の文章読本」とは志の高さがまるで違い、「小説、文章の分析とはかくあるべし」ということを鮮やかにかつ冷徹に提示する。独りよがりな経験論、哲学の押しつけのないところが潔い。そしてその大塚の説く「キャラクター小説の極意」は、『まほろ駅前多田便利軒』にそのままぴたりと当て嵌まることに驚かされる。パターン、抽象、組み合わせ、リアリズム……。これは実際に読んでいただくしかない。

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コメント

>どえらえもんさん
はじめまして。コメントありがとうございます。こちらも自分の書けることを細々とやっているだけなので、それで楽しんでいただけるなら望外の喜びです。これからもよろしくお願いします。

投稿: morio | 2006.07.17 21:42

初めまして

どえらえもん、といいます。

ココログの検索でこちらにたどりつきました。

毎日毎晩いろんなBlogサイトを拝見させていただいてますが

どれも私の知らない世界ばかりで、

いかに自分が世の中を知らないかを

痛感させられます。

こちらのサイトもとても興味深いです。

いつも、でたらめな妖怪人間を相手にしている自分とは大違いです。

どうもお邪魔しました (^^)

投稿: どえらえもん | 2006.07.17 01:12

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