ハチミツとクローバー
「恋に落ちる瞬間を初めて見てしまった」という真山巧の台詞は、竹本祐太が花本はぐみ(右写真参照)に一目惚れした瞬間に吐き出されたものである。
「ハチミツとクローバー」を象徴するかのようなこの台詞のエッセンスを、映画では全面的に展開する。すなわち原作マンガに見られた細かなエピソードの枝葉を綺麗に刈り込み、5人の若者のストレートな恋愛話だけに話題を引き絞る。どちらがいいということではない。それぞれのメディアの特性を活かして作られていると解せられる。美大生の群像劇を描く原作マンガはうるさいくらい様々なエピソードを語ろうとするが(それこそが「ハチクロ」の魅力である)、映画でマンガと同じことをすれば、まったくまとまりを欠く悪しきオムニバスとなってしまうだろう。煌びやかな綾織物のごとき青春物語を楽しむなら原作マンガで、シンプルで力強い恋愛物語を楽しむなら映画で、そういうように感じた。
原作のキャラクターと映画の俳優のイメージのズレは致し方のないことである。むしろマンガのコスプレのような映画こそ工夫がないといえる(たとえば大谷健太郎監督「NANA」)。どの俳優も作中人物の持つ本質をよく理解してうまく演じていたと思う。原作への思い入れがよほど強い人以外、まったく問題にならないだろう。もっとも先に述べたように枝葉を刈り込んだため、各人物像の厚みという点においては若干の物足りなさを感じる憾みがある。5人の中心人物のうち、とりわけ山田あゆみ役の関めぐみがビジュアルも雰囲気もぴたりと決まっていた。ただし花本はぐみだけはマンガとは別物と考えた方がよいかもしれない。そもそもあのキャラを実写で再現するのは容易ではない。あくまでも監督、脚本家、演出家、そして蒼井優の生み出した花本はぐみである。この点について、私は蒼井に好意的であるがゆえ「あり」としたいが、原作ファンの意見などを聞いてみたいものである。
恋が芽生え、つぼみが息吹き、
花が咲くか、咲かないかは、
わからないけれど、
それまでの大切な時間のお話。
映画のパンフレットに記されたものである。「全員が片思い」というハチクロ・ワールドが、実は映画ではほんの少しだけ幸せな方向に振られている。それもまたよし。細部まで念入りに誂えられたセット、調度、美術作品の類はすばらしいリアリティを生み出している。同潤会アパートを使った男子学生の下宿や、いかにも昭和風の花本先生の一軒家も素敵だった。artekのダイニングセットを置く大学食堂なんてあるのかしら。おそらく自然光を最大限生かしているのであろう、少し輪郭がもの柔らかに見えるような絵作りも、「ハチクロ」にふさわしい演出として好ましく思われた。なんだか最後は思いつくままに。南町田グランベリーモール・109シネマズで鑑賞。
公式サイト http://www.hachikuro.jp/
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コメント
>freeplayさん
不安(ファン?)なお気持ち、よくわかります。私の見たところでは、5人のうち、竹本の印象が最も薄いです。他の4人に比べてなんとなく存在感がないというか。竹本というキャラが凡人(はぐや森田に比べて)であるからといって、他の人物より薄くていいという理由にはなりませんからね。
まぁ原作ファンなら見ておいて損はないかと。ほめるにしてもけなすにしても(笑)。
投稿: morio | 2006.08.02 00:50
「はぐ」と「竹本」がどうしても不安で、なかなか観る気になれない原作ファンです^^;
蒼井優は好きな女優のひとりですが、どうしても原作の「はぐ」にピッタリと結びつかないのです。(だってどう考えてもコロボックルにならないし…)
やっぱり別物になってましたか。まあ、それならそれでありかもしれませんねぇ。
投稿: freeplay | 2006.08.01 10:41