2005.06.03

プルートウとパタリロ

宮本亜門がトニー賞の候補になったというニュースが先頃伝えられた。歴史と伝統を誇る演劇賞を獲得することになったら、画期的なことだろう。その宮本がノミネートと前後する時期にNHKで長く続いている「ようこそ先輩 課外授業」という番組に出演していた。多くの脚本や演出を手がける宮本らしく、子供たちに「赤ずきん」のドラマ化という課題に取り組ませていた。これが実におもしろかった。誰もが知っている「赤ずきん」をベースにしながら、個々の作中人物やエピソードに子供たちの考えた肉付けがされていくのだ。しばし逞しくしなやかな想像力の切り開く世界の豊かさを楽しむことができた。

この番組を見ながら、私はふと思い出すものがあった。それは、源氏物語と鉄腕アトム……。

約千年の時を隔てて生み出された両者には共通点がある。いずれも世界的な知名度を誇る日本の文化、著作物であるということだ。それぞれの偉大さはことさら述べ立てるまでもないだろう。そしてこの両作をモチーフにする漫画がほぼ同時期に現れたのである。一つは魔夜峰央の『パタリロ源氏物語!』(白泉社)、そしてもう一つが浦沢直樹の『プルートウ』(小学館)である。

『パタリロ源氏物語!』はバンコラン扮する光源氏やパタリロ陰陽師らが原作の展開に則りながら大暴れをする。しかし、そこはそれ、パタリロの世界観が投影されるわけだから、オールキャスト勢揃いのはちゃめちゃなドタバタ劇になっている。「平安時代にそんなこと!!」とか「源氏物語にはありえない!!」とか、そういうことを考えてはいけないのだ。パタリロたちならきっとそうするだろうと思わせて、期待通りにそうしてくれる。この予定調和的世界が心地よい。千年前の物語を説明するメタ言語が少々煩わしいかもしれないが、それ以上に現代の源氏物語享受のありようをうかがわせてくれる楽しみの方が勝っている。一番の問題はこのペースで行くと、源氏物語五十四帖終了時には百巻近くなることか。

一方の『プルートウ』は、鉄腕アトムの全エピソードの中で最も人気があったという「地上最大のロボット」をモチーフにして近未来のロボット社会を描くものである。私自身はアトムには思い入れもなく、テレビアニメも漫画もほどほどにしかつきあっていなかったため、「地上最大のロボット」の話もまったく知らなかった。今回、この原作が同梱されている豪華版を手にしたのだが、語ることばを失うほどのすばらしさである。原作にもある種のメッセージや哲学は感じるものの、どうにも娯楽の色が強すぎて、ありていにいえば幼稚に見えて仕方がないほどである。浦沢の描く世界は紛れもなく「地上最大のロボット」に依拠していながら、すでにそれを完全に凌駕しているとさえ思える。それほどの広がり、重み、深みがある。まだ二巻が発売されたばかりである。次はどうなるのだ!?

想像力の勝利。知力とセンスのある人たちが本気で「赤ずきん」を再構築するとこうなるのだ。

| | コメント (2) | トラックバック (0)